全 情 報

ID番号 06560
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 阪神観光事件
争点
事案概要  パチンコ店の店長やマネージャーがパチンコ玉の不正な玉出し等の行為をしたことを理由に解雇され、また、合意解約が成立したとされたのに対してその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
解雇(民事) / 解雇予告 / 解雇予告の方法
退職 / 合意解約
裁判年月日 1995年9月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 2345 
平成6年 (ヨ) 3019 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労経速報1582号3頁/労働判例688号53頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 労働基準法二〇条の「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の地位、職責、継続勤務年限及び勤務状況等に鑑み、該事由が同条の保護に値しないほど重大で悪質な事由をいうものと解すべきである。
 これを本件についてみると、前記1のとおり、債権者Aは、店長としての任務に背き、不正な玉流しをし、債務者に多大の損害を与えたものであるが、同債権者が右行為に及んだのは、客とのトラブルを避けんがためであって、不正な見返りを求めて右行為に及んでいたわけでなく(〈証拠略〉)、また、パチンコ機械別売上記録の保存を怠った点も、債務者の指示が十分でなかった憾みがあるから(〈証拠略〉)、いまだ即時解雇の要件が備わっていたとはいい難い。
 そうすると、債務者が、即時解雇に固執するのであれば、Aの解雇は無効である。
〔解雇-解雇予告-解雇予告の方法〕
 労働基準法二〇条が定める予告期間をおかず、解雇予告を提供することなく行われた解雇であっても、使用者が即時解雇に固執する趣旨でないことが明らかで、解雇された労働者が解雇予告手当ての支払を請求すれば、速やかにその支払がなされたといえるような場合には、解雇の意思表示から三〇日の経過をもって解雇の効力が生ずるものと解してよい。
 これを本件についてみると、債務者は、Aの解雇に際し、「法律の定めは守る」といった発言をしていたものと一応認められるが(〈証拠略〉)、その趣旨は必ずしも定かでないところ、本件審理は即時解雇の効力を専ら争点として進められてきたものであり、その終結に近くなるまで、債務者から解雇予告手当て支払の意思は全く示されておらず(〈証拠略〉)、債務者においては、即時解雇の要件が十分具備されているものと確信し、同債権者の不正を厳しく追及していたものであって、即時解雇に固執する趣旨でないことが明らかであったとはいい難い。
 そうすると、平成六年七月一五日ないし二〇日になされたAの解雇は、通常解雇としてもその効力を有しないというべきである。
〔退職-合意解約〕
 (一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者Bは、平成六年九月一一日午前一〇時ころ、債務者の本店事務室に呼びつけられ、債務者に不利な裁判資料(〈証拠略〉)の作成に関わったことを糾弾されたうえ、債務者の代表者から、「主任または一般従業員に降格するか」、それとも、「解雇予告手当ての一か月分と給与をもらってやめるか」といわれたこと、(2)これに対し、債権者Bは、債務者の待遇が取り立てて良いわけではなく、転職が困難であるとも思っていなかった(同債権者が自認するところである。)ところから、降格されるなら、辞めるしかないと考え、債務者が差し出した退職届けに自ら署名し、指印を押したこと、(3)そこで、債務者は、債権者Bに対し、九月分の給与として日割計算による一七万円と解雇予告手当てとして四六万四四五七円の受領を求めたこと、(4)これに対し、債権者Bは、「月給制ですのでまるまる一カ月分をもらわないと」といって、九月分の給与について日割計算ではなく、一か月分全額の支払を要求したこと、(5)そこで、債務者の代表者は、顧問弁護士の事務所に電話して助言を仰ぎ、「とりあえず、(八万円を加え)二五万円にして支払う。あとははっきりした時点で差額を支払う」ことにしたこと、(6)これに応じて、債権者Bは、九月分の給与として二五万円と解雇予告手当てとして四六万四四五七円を受け取り、その旨の領収書を交付し、同日午前一一時三〇分頃、事務所を辞したこと、が一応認められる。
 (二) 右事実によると、債権者Bは、合意退職したものであって、解雇されたものといい難い。