全 情 報

ID番号 06574
事件名 労働者災害補償保険不支給等処分取消等請求事件
いわゆる事件名 王子労働基準監督署長(昭和重機)事件
争点
事案概要  業務上の災害により療養補償は認められたが、その後の疾病について業務起因性がないとして不支給処分がなされ(第一次不支給処分)、右決定につき不服審査の申し立てまたは訴訟の提起がなされ、そこで業務起因性についての判断が未確定の間に、第二次の形でなされた補償請求につき、消滅時効が進行を開始するかどうかが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法42条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 行政処分の存否、義務づけ訴訟等
裁判年月日 1995年10月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 49 
裁判結果 棄却,一部却下
出典 労働判例682号28頁
審級関係
評釈論文 山口浩一郎・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕128~129頁2000年3月/松本克美・労働法律旬報1403号16~24頁1997年3月10日
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 1 労災保険法四二条は、時効期間、除斥期間のいずれを定めた規定か。
 労災保険法四二条は、法文上「時効によって消滅する」と明記しており、同法上の保険給付請求権は、それぞれ給付ごとの支給事由が生じた日に発生する権利であって、その行使が容易である反面、いたずらに長期にわたって不安定な状態下に置くことは煩瑣な事務をますます複雑化するおそれがあることから、短期消滅時効期間を定めたものと解すべきである。
 したがって、労災保険法四二条が除斥期間を定めたものであるとの被告の見解は採用しない。
 2 労災保険法四二条の消滅時効の起算点について
 労災保険法四二条は、消滅時効の起算点について直接の定めをしていないので、同法四三条により、その消滅時効の起算点は、民法の一般原則によって決すべきである。
 そうすると、消滅時効は、権利者において権利を行使することにつき法律上の障碍事由がない限り、権利を行使することのできるときから進行することとなる(民法一六六条)。したがって、本訴で問題となっている休業補償給付請求権についてみれば、この請求権は、業務上の傷病による療養で労働することのできないために賃金を受けない日ごとに発生し、その日ごとに発生する受給権については、それぞれその翌日から時効が進行することとなるので、昭和五七年三月一〇日から平成二年一〇月一三日までの休業補償給付請求権は、これを行使するにつき法律上の障碍事由の存することは認められないから、時効期間の経過により時効消滅したことは明らかである。
〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-行政処分の存否、義務づけ訴訟等〕
 被告は請求二につき訴え却下の判決を求めるので、この点につき判断するに、労災保険法による保険給付は、同法所定の手続により行政機関が保険給付の決定をすることによって給付の内容が具体的に定まり、受給者はこれによって初めて政府に対しその保険給付を請求する具体的権利を取得するのであり、それ以前においては具体的な保険金給付請求権を有しないから、休業補償給付請求権自体が被告監督署長の支給決定により初めて具体的に発生するものである以上、原告が確認を求める損害賠償請求権の訴えも、将来の権利又は法律関係につき確認を求める訴えであると解されるところ、確認の訴えは現在の権利又は法律関係についてのみ認められ、将来の権利関係については確認の利益がなく許されないと解すべきであるから、原告の請求二の訴えは確認の利益を欠いた不適法な請求であるといわざるをえない。