全 情 報

ID番号 06597
事件名 地位確認等請求本訴事件
いわゆる事件名 医療法人思誠会事件
争点
事案概要  抗生物質の過剰投与等がある旨の医師による内部告発が病院を中傷した等として解雇した事案につき、その告発内容に不当な目的等はなかったとして、解雇権の濫用にあたり無効とした事例。
 解雇の意思表示をうけた医師が他の病院に勤務していたとしても、法廷で解雇の効力を争う準備中である旨通告をしていること等により、合意解約が成立しているとはいえないとした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 会社批判
解雇(民事) / 解雇権の濫用
退職 / 合意解約
裁判年月日 1995年11月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 2312 
平成5年 (ワ) 4004 
裁判結果 本訴認容,一部棄却,却下,反訴棄却
出典 時報1562号126頁/タイムズ912号175頁/労働判例683号17頁/労経速報1589号22頁
審級関係
評釈論文 小宮文人・判例評論456〔判例時報1585〕219~223頁1997年2月1日/西崎健児・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕392~393頁1997年9月
判決理由 〔解雇-解雇事由-会社批判〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 右認定事実によれば、被告が原告らを解雇した直接の理由は、被告主張の解雇事由の(4)(佐倉保健所への申告)であることが窺われる。そして、前記2(八)で認定したとおり、原告らは平成三年一二月一一日、勤務時間中に佐倉保健所へ赴き、A病院における治療方法、衛生状態、リカバリールーム等について内部告発をし、その指導改善方を求めたものである。しかし、前記認定事実によれば、A病院においては、B医師が抗生物質の過剰かつ不適切な投与を行うなどしていたこと、その診療方法は、C院長も、非常識であると考えて、D会長に同医師の解雇を上申していたほどであって、医学的見地から誤りである蓋然性が高いこと、当時、A病院においては、MRSA保菌者が相当数存在し、死亡者も発生しており、第三世代系の抗生物質の過剰かつ不適切な投与がその原因の一つとなっている可能性が高く、B医師の診療方法は入院患者の身体・生命の安全に直接関わる問題であること、原告らはC院長やD会長らに、B医師の診療方法等について、再三その指導改善を求めたが、B医師の診療方法に変化はなく、原告らは被告が右診療方法等の改善をする気がないものと判断して、保健所による指導改善を期待して右内部告発に及んだものであり、不当な目的は認められないこと、原告らが、右保健所への申告内容が右保健所を通じて公表されたり、社会一般に広く流布されることを予見ないし意図していたとも認められないこと、被告は右申告の翌日に原告らを本件解雇したものであるが、本件解雇通告時はもちろん、その後も保健所を通じて原告らの申告内容が外部に公表されたことはなく、保健所から不利益な扱いを受けたこともないことが認められる。以上によれば、原告らの佐倉保健所への申告を理由に、原告らを解雇するのは、解雇権の濫用にあたると言うべきである。
〔退職-合意解約〕
 原告らが本件解雇後間もなく、他の病院に勤務し、相当の収入を得ていることは当事者間に争いがなく、また、(証拠略)によれば、A病院は平成六年三月三一日に閉鎖されたことが認められる。しかし、(証拠略)によれば、本件解雇通告当時から、原告らが本件解雇に納得せず、C院長に解雇理由を問い質したり、出勤停止命令を無視して病院内へ立ち入ろうとしたこと、平成四年一月には、原告ら代理人弁護士に依頼し、同弁護士は、同月一六日付けの内容証明で、被告に対し、本件解雇は無効であり、法廷で効力を争う準備中である旨通告していること、本件提訴は本件解雇の日から一年以内になされていること、被告はA病院以外にE病院も経営していて、原告らの労働を受け入れる場所が存在しなくなったとは言えないことが認められ、原告らが本件解雇を承諾し、雇用契約が合意解約されたとか、権利が失効しまたは確認の利益が喪失したとはいえない。