全 情 報

ID番号 06711
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 朝日火災海上保険事件
争点
事案概要  労働組合法一七条所定の要件を満たす労働協約により、定年年齢が引き下げられ、退職金が減額される場合、非組合員にもその協約の効力が及ぶとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項3の2号
労働組合法17条
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1989年5月30日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 465 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 民集50巻4号1055頁/時報1318号127頁/労働判例545号26頁/労経速報1372号3頁
審級関係 上告審/06785/最高三小/平 8. 3.26/平成5年(オ)650号
評釈論文 高木紘一・法学〔東北大学〕54巻1号188~193頁1990年4月/小西國友・判例評論387〔判例時報1374〕202~209頁1991年5月1日/土田道夫・ジュリスト965号97~100頁1990年10月15日/林和彦・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕422~423頁1990年10月
判決理由 〔就業規則-意見聴取〕
〔退職-定年・再雇用〕
 3 右(一)ないし(六)の事実によれば、訴外組合は、全損保本部から一人一人の権利を留保する立場での条件付承認を得て、被告会社との定年・退職金の交渉を妥結させるにつき、昭和五八年五月九日の団体交渉の際、前記認定の付帯的発言をしたことが認められるけれども、そのことが被告会社との間で了解されたとか、右妥結事項の合意内容、あるいは付帯条件等になったものとはいえず、妥結後、被告会社が旧鉄道保険部出身の従業員に代償金を支払う際、各所属長をして直接該当者に本件労働協約についての理解を求めさせ、説得にあたらしめたことにも、取扱いに慎重を期した以上の意味はないと考えられ、本件労働協約に原告主張のような特約があったとは認められない。
 なお、A証言中には、訴外組合の右付帯的発言に対し、被告会社側が特段の異議を唱えなかったから、右付帯的発言の内容が本件労働協約の特約となることを認めたことになるとの部分があるが、右認定の経緯に照らし採用することができず、他にこの点に関する原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
 4 以上のとおり、本件労働協約に原告主張の特約があったとは認められないから、再抗弁1ないし3の各主張は、いずれも前提を欠くものであり、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことに帰する。
 四 以上の次第で、原告は、本件労働協約が締結され、本件就業規則等が制定された昭和五八年七月一一日以降本件定年制の適用を受けるところ、本件労働協約及び本件就業規則等によれば、原告は、当時既に満五七歳に達していたから、同日付で定年退職となり、その後本件労働協約の定める経過措置で満六二歳まで特別社員として再雇用されるという地位を有するに過ぎなくなったと認められる。
 そして、前記甲第二一号証及び乙第二八号証、第九二号証の二によれば、被告会社の給与規定では、職員に対するその月分の給与を毎月二〇日に支給するとされ、特別社員給与規定では、特別社員に対する給与を特別社員になった翌月から毎月二〇日に支給するとされており、その趣旨からみると、特別社員となった月に支給されるべき給与は、社員としての給与であり、特別社員として減額された給与が支給されるのはその翌月からであると解されるから、被告会社が同年七月一二日以降原告を特別社員として取り扱い、同年八月以降の原告の月例給与及び賞与等(但し、後記のとおり昭和五九年の春期賞与を除く。)を本件労働協約及び本件就業規則等の定める基準(特別社員給与規定)に基づき減額して支給したこと、原告に対し昭和六二年一一月三〇日付内容証明郵便をもって、同年一二月一〇日で特別社員再雇用期間満了による退職とする旨通知するとともに、同月一一日以降原告を退職したものとして取り扱ったことには理由があるというべきである。