全 情 報

ID番号 06724
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 自動車事故損害賠償請求事件
争点
事案概要  労働者災害補償保険法に基づく給付(傷害補償年金)を受けていた者が交通事故により死亡したことに関連して、その相続人が右給付につき被相続人の平均余命期間内の受給額の現在額につき、損害賠償請求できるかどうかが争われた事例。
参照法条 自動車損害賠償保障法3条
労働基準法84条2項
労働者災害補償保険法12条の4
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1995年3月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 7612 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ904号184頁/交通民集28巻2号527頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 亡Aは、昭和四〇年四月五日発生の労務災害により受傷し、昭和四二年三月三日、〔1〕右手関節の機能障害、〔2〕右手五の指の用を廃するという後遺障害が残存しており、右障害は障害等級の第一二級の六、第七級の七にそれぞれ該当し、併合して第六級相当であると認定され、昭和四一年一一月に遡って労働者災害補償保険法による保険給付がなされる運びとなったこと、前記〔1〕については症状が軽減し不該当となり、昭和四三年四月三日、障害等級が第七級と変更され、昭和四三年二月より支給変更となったこと、本件事故当時は、労働者災害補償保険法に基づく保険給付として、障害補償年金年額一〇四万六四〇〇円、障害特別年金年額一七万七〇〇〇円の支給を受けていたことが認められるところ、亡Aは交通事故によって死亡したのであるから、その相続人である原告らは、加害者である被告に対して、障害補償年金の受給者である亡Aが生存していればその平均余命期間に受領することができた障害補償年金の現在額を同人の損害として、その賠償を請求することができるというべきである。けだし、障害補償給付としての障害補償年金は、一定期間以上労働者として使用された後に被災した者に対して、被災時における給与の額を基準として算出された金額を受給者の死亡に至るまで支給するものであるところ、被災時における給与額が基準とされていることなどからみて、障害補償年金は、被災後死亡までの期間において被災者の有する全稼働能力を平均して金額的に表象するものと解することができるからである。また、障害特別年金は、障害補償年金の受給者に対して支給されるものであり、右の障害年金がボーナスなどの特別給付を算定の基礎として算入していないことから、年金受給者等の援護の充実を図るためのものとして設けられたものであり、被災労働者が被災以前の一年間に受けた特別給与の総額が算定の基礎とされていることなどからみて、障害特別年金も障害補償年金と同様の理により、逸失利益性を肯定できるものというべきである。
 したがって、労災年金受給権喪失による逸失利益の現在額は、障害補償年金及び障害特別年金の合計額一二二万三四〇〇円を基礎とし、生活費控除率を一と同様に五割とみて、原告らが求めるのは亡Aの稼働可能期間に受給することができた部分であるから、その間の中間利息の控除をライプニッツ方式によって行うこととすると、以下の計算式のとおり、七一五万〇四六七円(一円未満切捨)となる(なお、亡Aの相続人のうちには、亡Aの死亡を原因として遺族年金を取得した者はいないから、遺族年金の賠償額からの控除は問題とならない。)