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ID番号 06763
事件名 けん責処分無効確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 日本電信電話事件
争点
事案概要  研修期間内にした年休の時季指定につき、非代替的な業務であるとしても、本人の努力により講義内容を補うことは可能であるとして、事業の正常な運営を妨げる場合に該当せず、使用者の時季変更権の行使は適法とはいえないとした事例。
参照法条 労働基準法39条4項(旧3項)
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1996年1月31日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ネ) 3792 
平成7年 (ネ) 5139 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集47巻1-2号1頁
審級関係 一審/06300/東京地八王子支/平 6. 8.31/平成3年(ワ)1677号
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 (5) 以上によれば、被控訴人が本件訓練に参加中であったからといって、その年休取得が直ちに時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するということはできず、被控訴人の本件訓練参加中の年休取得が右「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、前示のとおり、本件訓練の目的、内容、期間及び日程、年休を取得しようとする被控訴人の知識及び技能の程度、取得しようとする年休の時期及び期間のほか、年休取得によって欠席することになる訓練の内容とこれを補う手段の有無等を総合的に比較考量して、被控訴人が年休を請求した平成元年一一月二一日に年休を与えることが本件訓練の目的の達成を困難にするかどうかの観点から、判断すべきである。
 そして、右の観点から本件における控訴人の時季変更権行使の適否について検討すると、なるほど、前示のとおり、控訴人においては、技術革新に即応した高度の知識、技能を有する職員を養成することが急務であったことは十分理解することができるが、前記認定の本件訓練の目的、内容、期間等、被控訴人の職歴、職務内容等のほか、被控訴人の請求した年休は一日間のみであり、その年休取得を認めた場合、被控訴人は、本件訓練中に予定されていた六時限の共通線信号処理に関する講義のうち、平成元年一一月二一日に予定されていた四時限の講義は欠席することになるが、これに続く翌二二日に予定されていた二時限の講義には参加し、一部であるとはいえ右共通線信号処理に関する講義に参加することのほか、右講義については前記のとおり教科書が存すること、それに、被控訴人の前記職歴及び職務内容(被控訴人の所属する交換課は、共通線信号処理にかかわる業務も担当していた。)に伴う知識、経験を考慮すれば、被控訴人の努力により右欠席した四時限の講義内容を補うことは十分に可能であると認められ、また、現に、被控訴人は、おおむね普通以上の評価をもって本件訓練を終了(卒業)しているのであるから、本件訓練において被控訴人が同月二一日の一日間の年休を取得することが被控訴人について本件訓練の目的の達成を困難にするとまで認めることは困難である。したがって、被控訴人が右同日に一日間の年休を取得することは、控訴人の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとはいえず、控訴人が被控訴人に対してした本件の時季変更権の行使は、労働基準法三九条四項ただし書の要件を欠く違法なものであるといわざるを得ない。
 なお、前示のとおり、控訴人においては、訓練中の年休請求に対し、これを付与するかどうかの判断は、学園が行い、事後的にその結果を原局に通知する取扱いとされているが、このことは、訓練中の年休取得が訓練の目的の達成を困難ならしめるかどうかの判断は、訓練を実施し、訓練の内容及びカリキュラムを具体的に把握している学園において最も良くなし得るとの考慮に基づくものと解される。したがって、本件について立川ネットワークセンタ所長が時季変更権を行使したのは、右の取扱いを逸脱し、右のような考慮を無にするものといえよう。そして、前記認定の経緯によれば、立川ネットワークセンタ所長は、右時季変更権を行使するに当たり、被控訴人が年休を取得することにより欠席することになる本件訓練の具体的内容を検討した形跡はみられない。
 3 そうすると、被控訴人の年休請求に対して控訴人のした時季変更権の行使は、違法であるといわざるを得ないから、その余の点につき判断するまでもなく、被控訴人の平成元年一一月二一日の本件訓練の欠席は、無断欠席であるということはできない。したがって、右欠席が無断欠席であることを理由としてされた被控訴人に対する本件譴責処分、職能賃金の定期昇給の四分の二の減給及び一日分の賃金カットは、いずれも無効である。そして、前示のとおり、被控訴人に対する右減給額及びカット額の内訳及び合計額が別紙のとおりであることは、当事者間に争いがない。
 以上によれば、被控訴人の本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がある。」