全 情 報

ID番号 06782
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 三菱電機事件
争点
事案概要  インド国籍でアメリカに在住していた者が電機会社にシステムエンジニアとして採用されたが、他の社員との差別取扱いがあるとして会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1996年3月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 12497 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1592号25頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告は、白人の欧米系外国人社員との間で日本語教育、業務等の面で不当な差別を受けた旨を供述する。
 しかし、証拠(略)によると、なるほど、被告は、白人の欧米系外国人社員に対しては日本語教育を施してはいるが、このことはこの社員が外国大学新卒採用であることと、二年間の有期の嘱託契約で採用していることを考慮して、日本語教育を施すことを雇用の条件としていることによるのであり、被告の費用負担で日本語教育を施すことを採用条件としているが、このことは限られた期間ではあるが被告において技術を習得してもらうとともに、日本語を習得してもらうことが被告にとっても国際化という観点からも価値あることと考えていることによるものであることを認めることができる。
 以上認定したとおりであるから、採用形態や雇用条件の異なる原告と白人の欧米系外国人社員とで日本語教育に関して差が存したとしても何ら差別的取扱いになることはないというべきである。〔中略〕
 (三) 日本人社員との差別待遇について
 原告は、被告は日本人社員に対しては語学研修システムとしてほぼ無償の英語教育を施している旨主張するが、本件全証拠によるも被告が原告の主張するような語学研修システムを実施していことを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、被告は日本人社員に対しては格別の英語教育を施しているのに原告には日本語教育を施さないばかりか、勤務中の日本語の勉強の機会をも許さなかった差別的待遇をしているかのような供述をしている。
 しかし、証拠(略)によると、なるほど、被告は、日本人社員のうちで海外留学、海外業務に従事させる場合に社員の経歴・能力・担当職務等を勘案して業務上の必要性に応じて英語教育を被告の負担において施しているが、被告が日本人社員に対し英語教育を被告の負担において施すのはこのような場合に限られるのであって、日本人社員全員に対し英語教育を施しているのではなく、コンピュータ製作所の研修部門において日本人社員のうちで英会話を希望する者に対して一か月八〇〇〇円の受講料を徴収して定時後に研修センターの教室を提供しているが、右徴収金は講師の支払に充てており、被告が費用負担をしているのではないことを認めることができる。
 したがって、この点に関する原告の右供述は右掲記の証拠と対比してにわかには信用することができず、他にこの点に関する原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 被告は、原告が被告に勤務するようになってから原告の得意とする分野をいろいろな角度から検証したものの、これを見出すことができず、原告からも職務内容に関する格別の希望もなかったことから、原告にデータベースに関する分野の仕事を与えて育成していくという方針を立てた。このようなことから被告は原告に対し、IBM社製のオフコンであるAS/四〇〇を与え、製品開発そのものではなく、既に完成しているコンピュータシステムの性能評価、規格への適合度評価等のいわゆる評価業務を担当させ、このための業務命令も英語でなしたのであり、そして、右の評価結果も英語でレポートすることとなっていたのであって、そこで必要とされる日本語の知識はコンピュータに関する極一部の用語の理解があれば十分であり、また、原告の配置された職場は英語に堪能な者が多く、データベースに関しては極めて優秀で英語力のある従業員をして原告の指導に当らせてきた。原告に供与された右コンピュータのディスプレイ上の表示も基本的には英語であって、コンピュータマニュアルについても、コンピュータ言語は英語を基本にしていることから、一部は日本語で説明された部分はあったものの、本質的な部分は英語で説明されていた。
 また、グループ内のリーダーを長とするミーテングにおいても必要な部分はその都度リーダーが英語で原告に説明するか、あるいはミーテングが終了した時点でその概要を原告に英語で説明しており、ミーテングそのものを出席者全員が英語でなしたこともあった。このようなことから、原告は、担当職務遂行の上において日本語の能力がなくとも英語力があれば格別支障は生じなかったのである。
 以上の事実が認められるところ、原告は、被告が原告に対し処遇上差別的・不利益取扱いをしたことを縷々供述するが、これは前掲各証拠と対比してにわかには信用することができず、他にこの点に関する原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 以上に認定・判断したところから明らかなとおり、被告が原告に対し、原告の主張するような言語等の面で差別的取扱いをしたことを認めることができないのであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。