全 情 報

ID番号 06822
事件名 過払金返還請求
いわゆる事件名 ベネッセコーポレーション事件
争点
事案概要  賞与の支給基準として、中途採用者の冬期賞与は基礎額の四か月分とされるが、一二月三一日までに退職を予定している者については、四万円に在職月数を乗じた額とすると定められていた会社で、基礎額の四か月分の冬期賞与が支払われた中途採用者が、年内に退職したことを理由に、四万円に在職月数を乗じた額との差額の返還を求められた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 退職予定者減額制度
裁判年月日 1996年6月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 1609 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労働判例696号17頁/労経速報1603号3頁
審級関係
評釈論文 小俣勝治・労働法律旬報1406号30~39頁1997年4月25日/上村雄一・佐賀大学経済論集30巻1・2号351~386頁1997年5月/西谷敏・民商法雑誌117巻2号125~135頁1997年11月/中嶋士元也・ジュリスト1106号149~151頁1997年2月15日/土田道夫・法律時報69巻8号110~113頁1997年7月
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-退職予定者減額制度〕
 本件支給基準書に従うと、平成四年四月一日以降同年九月一日までに入社した中途入社者である被告の場合、退職予定がなければ一六二万二八〇〇円が支給されるが、年内退職予定があれば在月数七か月として二八万円しか支払われないこととなり、支給額に一三四万円余の差を生じ、退職予定がある場合には、それがない場合の賞与額の一七パーセント余の金額しか受給できないこととなる。前記のとおり、将来に対する期待の程度の差に応じて、退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は、不合理ではなく、これが禁止されていると解するべき理由はない。しかしながら、本来の趣旨が賃金と認められる原告の賞与において、過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分が、被告と同一時期に中途入社し同一の基礎額を受給していて年内に退職する予定のない者がいた場合に、その者に対する支給額のうちの八二パーセント余の部分を占めるものとするのは、いかに在社期間が短い立場の者についてのこととはいえ、肯認できない。本件支給基準書の内容は、六項においては基礎額に応じ、本件条項においては在籍期間に応じ、それぞれ額が変動するのでその相互の割合には変動があるが、被告と同様の条件にあった非退職予定者の場合については、右八二パーセントの部分のうちにも、本来賃金の要素からなる部分が含まれていると解さざるをえない。そうすると、年内退職予定者に対して、その分を支給しないとすることは、実質的に、従業員の賃金を不当に奪うことになり、従業員に対する賃金の支払いを保障する労働基準法(二四条)に反する結果を招致することになる。本件条項は、その限度において、労働基準法の趣旨に反しており、民法九〇条違反であると解される。また、給与規程との関係においても、給与規程が、前記のとおり原告における賞与を基本的に賃金の一種ととらえていることからすれば、実質的に賃金である部分については、退職予定者に対しても支給することを予定しているといわなければならないから、それを下回る支給額しか算出されない本件条項は、その限度において、給与規程の委任の枠を超え、原告における賞与制度の趣旨を阻害するものであり、無効である。
 4 原告が一定の範囲内で、従業員に対する将来の期待部分を賞与の趣旨に含めて賞与額に反映させることが禁じられるものではないことは既に述べたとおりである。そして、その範囲・割合については、本件支給基準書に記載された従業員の各類型毎の支給基準を対比し、在社期間の短い中途入社者は将来に対する期待部分の割合が比較的多い類型の従業員であると思われること等の諸事情を勘案し、弁論の全趣旨に照らして判断すると、当時の被告については、これと同一の条件の非年内退職者の賞与額の二割とするのが相当である(被告は、懲戒による減給の制裁の場合との比較を論ずるが、賞与額の決定は、懲戒とは直接関係がないものと考える。)。
 さらに、本件支給基準書が年内退職予定者の賞与額を本件条項のみにより決定する趣旨であると解されるのは前述のとおりであるが、本件条項が、非年内退職予定者の賞与額との差を設けることの許された範囲を超えて年内退職予定者に対する支給額を低額にしている部分については効力がないので、年内退職者は、本件条項の定める範囲を越え、非年内退職者の賞与額の八割に達するまでの分については、補充的に本件条項の一般的規定である六項に基づき、賞与を受給する権利を有すると解するのが相当である。