全 情 報

ID番号 06828
事件名 募集手当金等請求事件
いわゆる事件名 協栄生命保険事件
争点
事案概要  保険外務員による保険料集金に関する不正行為を理由とする懲戒解雇を相当とした事例。
 懲戒解雇手続に違法の点はないとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1996年7月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 12070 
裁判結果 棄却
出典 労働判例702号50頁/労経速報1634号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 三 損害賠償請求(懲戒解雇事由の存否)について
 1 原告が、Aの保険料としての回金途上の金員を昭和五四年四月二四日に二三万九三四〇円(三月分)、同年五月一二日に二三万九四〇〇円(四月分)及び二四万五三九〇円(五月分)、同年六月八日に二五万六九七〇円(六月分)、同年七月九日に二六万一四一〇円をそれぞれ受領していながら、右各金員を連合会に対しても被告に対しても入金していないことは争いのないところ、右事実は、本件懲戒解雇事由を定める被告の就業規則(〈証拠略〉)一〇条一項一号の「保険料、保険金、解約返戻金その他の支払金を横領し、または正当な理由がなくその入金、回金または支払を遅延した場合」に該当するということができ、被告の職員としての原告のこのような行為は、生命保険会社としての被告の根幹を揺るがす重大な職務違背行為であるということができるから、本件懲戒解雇は合理性を有し相当であるというべきである。
 この点に関し、原告は、川崎第一から集金した右各金員については、被告にも連合会にも入金していない事実を認めながらも、川崎第一から集金した金額に見合う金員を、連合会に対し事前に川崎第一分として自己の金員の中から立替払いしていた旨主張し、右のような事情がある場合には「着服」に該当しないし、また就業規則一〇条一項一号等にも該当しないとする。
 しかし、原告は、「〔1〕AのBが昭和五三年一二月二八日死亡したが、昭和五四年五月一一日まで保険金が出なかったので、原告としては集金に行きにくいので、連合会の会計のCに対し、Aの同年三月分と四月分と説明した上で、同年二月二七日に五〇万円を入金しており、これの回収に充てたのが、前記の同年四月二四日と五月一二日のAからの集金分二三万九三四〇円及び二三万九四〇〇円であり、回収にあたっても、右Cの了解を得ている、〔2〕Aの五月分は、同年三月一五日、二四万円を五月分として入金することを連合会会計のCに説明している。この分の回収は、右Cの了解のもとに、同年五月一二日のAからの集金分二四万五三九〇円からしている、〔3〕Aの六月分及び七月分の保険料については、同年六月八日にAから二五万六九七〇円を集金後、それに二四万三〇三〇円をプラスして五〇万円とし、六月分及び七月分として、同年六月一四日、連合会のO共済部長に説明して入金しており、七月分として入金した分は、これまで回収していなかった分も含め、同年七月九日、連合会事務担当のDの了解を得て、Aからの集金分二六万一四一〇円から回収している。」と主張するが、(証拠略)等に照らすと、Eの保険金支払のみが格別遅れているとは認めることができないし、本件全証拠に照らしても、連合会に原告の立替えを証する帳簿等が全くないばかりか、原告がAから集金した金員を取得することにつき連合会の担当者等から了解を得ている事情も全く認めることができないし、そもそも、本来、保険料の支払いは翌月払いでよいのに、敢えて期日前に原告が立替払いしなければならない必要性の存したことも認めがたい。
 原告は(証拠略)と(証拠略)を比較し、同年二月二七日、五〇万円をAの三月分及び四月分として、同年三月一五日、二四万円をAの五月分として、六月一四日、五〇万円をAの六月及び七月分として、それぞれ連合会に立替払いしたとも主張しているけれども、右証拠をもってしても、原告の立替払いの事実を認めるに十分でなく、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠もない。
 したがって、原告の右の点に関する主張は採用しない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 2 また、原告は、本件懲戒解雇手続は、手続として適正さに欠ける旨主張するが、本件においては、前記認定のとおり、原告は被告からの再三にわたる問い合わせにもかかわらずAから集金した金員につき何ら被告に回答しなかったことから、被告において、前記のとおりの諸手続を経て本件懲戒解雇をしているのであるから、その他右手続に違法の点の認められない本件にあっては、原告の主張は理由がない。