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ID番号 06839
事件名 差額賃金支払請求事件
いわゆる事件名 石崎本店事件
争点
事案概要  中途採用者に対する初任給についての男女差別があるとして、差額賃金自体の請求は却けたが、差額賃金相当分の損害賠償の支払を使用者に命じた事例。
参照法条 労働基準法4条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 1996年8月7日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 962 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労働判例701号22頁/労経速報1606号3頁
審級関係
評釈論文 三井正信・労働法律旬報1394号14~23頁1996年10月25日/山田延廣・労働法律旬報1394号24~27頁1996年10月25日/小俣勝治・季刊労働法181号186~189頁1997年3月
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕
 被告における中途採用男女の初任給格差(たとえば、原告とA、B及びCら男子従業員との間の初任給格差)には合理的理由が認められないから、原告が女子であることのみを理由としてなされた不合理な差別であると認められる。
 三1 差額賃金請求(主位的)について
 原告は、本件賃金差別は、女子であることのみを理由とするものであって、労働基準法四条に反するから、原・被告間の労働契約は賃金に関する部分に限り無効であり、この無効になった部分は同法一三条により(又は類推適用により)男子の労働条件が適用されることになるから、原告は、男子従業員と等しい初任給が決定されたものとして計算された賃金と現実に支給された賃金との差額について賃金請求権を有すると主張する。
 そもそも、賃金は、労働の対価として使用者が労働者に支払うものであって(労働基準法一一条)、その性質上一律的な規定になじまないものであるから、賃金の具体的内容、特にその額については、労働契約や就業規則等の使用者と労働者との意思表示によって定めるほかはない。
 もっとも、労働基準法一三条は、労働基準法の直律的効力を定め、民法の私的自治に対する例外として、当事者の意思表示なくして法律効果を発生させることができるとしているが、同条の「この法律に定める基準」とは、「達しない労働条件」という文言から明らかなように、労働時間や休日、休暇などのように具体的、数量的な基準を指すものと解され、賃金の場合には具体的な金額を確定することができる基準でなければならないから、それ自体として内容の明らかでない、「女子であることを理由として差別しないこと」が右の基準に該当すると考えることはできない。
 また、本件では、「基本給の額は雇入れに際し、本人の学歴・能力・経験・技能・作業内容等を勘案して各人毎に決定する」(被告の給与規定八条)と規定されているのみで、賃金表などの客観的な支給基準が存しないため、原・被告間の労働契約が賃金に関する部分に限り無効であるとしても、この無効になった部分に補充すべき賃金規定の内容が一義的に明確ではないため、同条にいう「この法律に定める基準」を確定できないから、同法一三条を適用する余地はない。
 さらに、賃金表などの客観的な支給基準が存在せず、賃金額の決定に際し、被告の具体的な意思表示又は裁量行為が必要とされる本件において、被告の具体的意思表示がないにもかかわらず原告について男子従業員と同等の初任給が決定されたものと解する見解は、意思表示の解釈上無理があり、採用することができない。
 したがって、差額賃金請求権はこれを認めることができないから、原告の右主張は理由がない。
 2 債務不履行に基づく損害賠償請求(主位的)について
 原告は、被告には労働契約上女子従業員を男子従業員と平等に取り扱う義務があるにもかかわらず、原告に対し、男子従業員より低い初任給を決定したとして、債務不履行に基づき差額賃金相当の損害賠償を請求する。
 しかしながら、前示のとおり賃金の決定には被告の意思表示が必要であると解されることから、原告の主張するように労働契約の内容として、被告に対し、原告に男子労働者と同等の初任給を支給すべき債務を認めることは解釈上困難であるし(被告の意思表示がないにもかかわらず実質上賃金債権の発生を認めることになる。)、また、不履行とされる被告の債務の内容についても、決定されるべき賃金額が一義的に明確ではなく、被告にとって債務の内容が特定を欠き明確とはいえないから、男女平等取扱義務に反する初任給の決定を債務不履行とする原告の主張は理由がない。
 3 不当利得返還請求(主位的)について
 原告は、被告は原告に対し、男子従業員と同等の初任給を支払う義務があるのに、これを支払わなかったため、原告はその後も右初任給を基準とした男子従業員との賃金差額につき、右差額賃金相当の損害を被り、被告はその結果不当な利得を得ているとして、不当利得返還請求をする。
 しかし、右三1で述べたとおり、被告の意思表示にかかわらず、被告に男子労働者と同等の初任給を支払う義務を認めることはできないから、不当利得返還請求も認めることができない。
 4 賃金の確認請求について
 原告は、労働基準法一三条もしくは労働契約に基づき、Aと同等の初任給が決定されたものとして計算した平成六年五月一日以降の基本給の確認請求をする。
 しかし、前述のとおり、客観的な賃金の支給基準が存しない本件においては、労働基準法一三条もしくは労働契約上、被告の意思表示がないにもかかわらず、原告と被告との間で、原告につきAと同等の初任給を支払う旨の労働契約が成立し、差額賃金請求権が発生したものと解することはできないから、右確認請求は認めることができない。
 四 不法行為に基く(ママ)損害賠償請求(予備的)について
 前記一、二の認定説示によれば、被告は、女子であることのみを理由として、原告と男子従業員との間で初任給差別をし、その後も是正することなく放置して賃金差別を維持したものであるから、右差別は労働基準法四条に反し、公の秩序に反するものとして不法行為を構成するというべきである。
 したがって、原告は、不法行為に基づき、被告に対し、右初任給差別と相当因果関係のある損害の賠償を請求することができる。