全 情 報

ID番号 06853
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本通運事件
争点
事案概要  グループを作り自己の所有する軽貨物自動車を用いて運送会社の運送業務に従事していた者が、右グループの解散に関連して運送会社から移籍を拒否され、右運送会社との間で労働契約が存在していたとして地位確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
民法632条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
裁判年月日 1996年9月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 5838 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例707号84頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1129号125~127頁1998年3月1日
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
 (一) 労務提供者と受領者の間に使用従属関係が存在するというためには、労務受領者が労働時間及び労働内容を支配、管理しており、労務供給者においてこれらを自由に処分することのできない状況にあることが必要であると解すべきところ、本件においては、原告は、朝の出頭時刻は被告から指示されていたものの、終了時刻については特に定めがなく、仕分け作業が終了すれば自由に帰宅することができたこと、朝の出頭時刻の定めも事実上のもので遅刻したとしても報酬等の面で不利益を受けることはなかったこと、配送作業が終了してから仕分け作業に入るまでの間は時間を自由に使うことができたことは前記認定のとおりであり、また、(証拠・人証略)によれば、Aグループ内においては、仕分け作業に従事するかどうかはある程度各人の裁量に任されており、原告が最近週に二日は午後の仕分け作業に従事しなくなったのもAグループの中で自主的に決められたものであって被告の指示によるものではなかったことが認められ、さらに、原告が仕事を休む場合に被告に届け出ていたような形跡が窺われないこと等に鑑みると、原告は、作業時間及び作業内容についてある程度自由に決定しうる立場にあったというべきであり、これらを被告が支配、管理していたものと認めることはできない(なお、原告は、仕分け作業に従事した時間を所定の用紙に記入していたが、これが被告が行わせていたものであることを示す証拠はなく、かえって、〈証拠略〉によれば、これは報酬の算定をするために瀬角が行っていたものと推認されるから、これをもって被告が原告の労働時間を管理していたことを示すものとはいえない。)。
 以上によれば、原告の物流センターにおける配送及び仕分け作業が使用従属関係のもとにおいて行われていたものと評価することはできず、かえって、原告が運送事業者としての届出を行っており、配送には「B会社」と表示された原告所有の軽貨物自動車(事業用ナンバー)を使用していたこと、右車両の諸経費はすべて原告が負担していたこと、配送作業の報酬は完全な出来高制であったこと等に鑑みると、原告は、物流センターにおける配送及び仕分け作業を独立した事業者として行っていたものと評価すべきである。
 (二) もっとも、仕分け作業は、被告の作業員らと混然一体となって行われていたものであり、自らが配達する貨物だけを仕分けしていたものではないこと、作業上の指示が被告から与えられることがあったこと、被告所有の器機を使用して行われていたこと、その報酬が作業に従事した時間によって決定されていたこと等の事実に鑑みると、これが被告の指揮監督下における労務の提供としての性質を有していた面もあながち否定できない。しかしながら、前記認定の事実関係によれば、仕分け作業についても、一定時間従事することに重点があったわけではなく、あくまで一定量の貨物を仕分けすることに重点があったと考えられ、また、仕分け作業は翌日の配送の準備として行われるものであり、配送に付随する作業であって、報酬に占める割合も少なかったこと、そもそも仕分け作業に従事するかどうかはAグループ員の中で自主的に決定されていたこと(原告は、仕分け作業に従事するかどうかについて諾否の自由はなかった旨主張するが、〈証拠・人証略〉によれば、仕分け作業に従事するかどうかはAグループ内においてかなり各人の自由に任されていたことが認められるから、右主張は採用できない。)等をあわせ考慮すれば、右仕分け作業における作業の実体をもって直ちに原告が被告の指揮監督のもとに労務を提供していたと評価することはできない。〔中略〕
 さらに、原告が物流センターにおける配送及び仕分け作業の他にも配送や引越の助手等の作業を行うことがあったことについても、(証拠・人証略)によれば、これらの作業はそれほど頻繁に行われていたものではないことが認められ、また報酬は別途支給されていたというのであるから、これによって前記認定が左右されるものではなく、また、原告が被告の制服を着用していたことについても、(証拠・人証略)によれば、これは防犯上C会社から要請されたためであり、その費用もAグループが負担していたことが認められるから、やはり前記認定を左右するものではない。
 2 以上に述べたところによれば、原告は被告との間の使用従属関係に基づいて労務を提供していたとはいえないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告と被告との間に労働契約が成立しているとする原告の主張は理由がない。
 三 次に、本件契約が請負契約であることを前提とした原告の予備的主張について検討する。
 1 原告は、請負契約たる本件契約が原被告間に直接成立したものであると主張する。しかしながら、被告とAグループの間に請負契約書(証拠略)が交わされていること、原告が物流センターにおいて作業に従事するに至る経緯を見ると、人選はすべてDが行っており、被告が関与していたことを窺わせる証拠はないこと、原告の配送地域はすべてDが決定していたほか、原告が仕分け作業に従事する曜日及び時間もAグループ内で決められたものであって、被告は、Aグループが一定の業務を行う限りは、原告が実際に業務を行っていたかどうかについて関心を有していなかったものと認められること等に照らせば、本件契約は原告とAグループ又はDとの間で締結されたものと認めるのが相当であり、原告と被告との間に直接の契約関係を認めることはできない。
 2 これに対し、原告は、Aグループが会計処理の名目上作られた全く実体のないものであるから、原告と被告との間に直接の契約関係を認めるべきであると主張する。〔中略〕
 しかしながら、Dが原告らAグループ員の配送地域の割り振りを決定していたこと、グループ員の報酬からマージンを取得していたこと、Aグループ内の経験の浅い運転手に添乗指導を行っていたこと等に鑑みると、少なくともDには原告らAグループの構成員との関係で契約当事者としての実体がなかったとはいえないし、Aグループが起こした事故はその責任で処理されていたことは、同グループが一応被告とは区別された独立の事業者として意識されていたことを示すものということができる。また、DはAグループの当初からのメンバーである福原についてはマージンを取得しておらず(〈人証略〉)、被告と直接契約関係にある当初のメンバーとその後に加入した原告らとは区別して扱われていたことを窺うことができる。さらに、本件においてAグループが解散に追い込まれたのは、Dが出て来なくなったことが主たる要因であったと見ることができるから、必ずしも被告がAグループを解散させたと評価することもできない。これらの点を総合すると、Aグループ又はDが全く実体のない形式的な存在であったとまでは断定できず、原被告間に直接の契約関係を認めるには至らないというべきである。