全 情 報

ID番号 06863
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本周遊観光バス事件
争点
事案概要  観光バス運転手に対する同僚との喧嘩、チップのピンハネ等を理由とする諭旨解雇につき、解雇権の濫用に当たり無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 暴力・暴行・暴言
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1996年9月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 1697 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例712号59頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-暴力・暴行・暴言〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 1 まず、原告とAとの喧嘩は、Aにも責任があり、原告のみを非難することはできないし、また、Bとの喧嘩についても、Bの責任を否定することもできない。しかも、これらの事件に対する被告の対応も、今後の円滑な乗務を確保するため、事件を穏便に解決しようと、関係者に対する処分はしていない。したがって、原告の右行為が就業規則一〇九条に該当するとしても、原告のみを非難すべきではないということができる。
 2 原告がCの件においてチップをピンハネした行為は、観光バス運行業務が乗務員間(運転手とガイド、運転手と車掌)の共同作業に係るものであることに鑑みるとき、著しく乗務員間の信頼関係を損ない、被告による円滑な乗務態勢の整備に影響を与える行為であって、被告にとって、軽視できないものがあるということができる。また、原告の右行為は、原告のみがチップを独り占めをすることによって、同乗する乗務員の、いわば労働の励みというべき一種の楽しみを不当にも奪うものであって、同乗する乗務員の立場からも、重大である。(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社において、ガイド等の乗務員は、原告がチップを常習的にピンハネしているとの疑いを抱いていたことから、原告との乗務を著しく嫌うなどの状況が生まれていることが認められるが、これは、チップのピンハネによる乗務員間の信頼関係の喪失がもたらす事態の重大性を示すものである。
 しかしながら、原告がチップのピンハネ行為をしたのはCの件のみであり、しかも、その件において原告がピンハネした金額は僅かに一二〇〇円であることに鑑みるとき、前記のチップのピンハネ行為の卑劣さ、悪質さ等を考慮しても、これを理由に、直ちに原告を解雇するというのは、いかにも過酷にすぎるということができる。
 以上によれば、原告の右各行為につき、これを総合考慮しても、被告が諭旨解雇をもって処分したのは、重きに失し、相当性を欠くということができるので、本件解雇は、解雇権の濫用として無効であるというべきである。