全 情 報

ID番号 06870
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 全税関神戸事件
争点
事案概要  全国の税関に勤務する職員により組織されている組合の組合員が、任用時期及び任用資格を同じくする非組合員のうち昇任、昇格、昇給において標準的な取扱いを受けている者(標準者)と比較して昇任等に遅れが生じているのは、組合員であることを理由として行われた不利益取扱いであるとして、国に対して国家賠償法により差額相当額の損害賠償を請求した事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法108条の7
民法709条
国家賠償法1条
人事院規則9-8(初任給,昇格,昇給等の基準)20条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1996年10月29日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ネ) 694 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集47巻5-6号457頁/タイムズ958号148頁
審級関係 一審/05886/神戸地/平 4. 2. 4/昭和49年(ワ)578号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 控訴人らは、第一審原告組合員等が本件係争期間終了時において非組合員より給与上劣る処遇を受けていたのは、神戸税関長から、控訴人組合の組合員であることを理由として、昇任、昇格、昇給につき不当な差別扱いを受けたためであると主張する。
 しかし、前記第三の二、第四の二で判示したとおり、税関職員を含む国家公務員の昇任、昇格、昇給は、成績主義の根本基準に基づき、当該職員の能力、勤務実績等を総合勘案して決定されるべき性質のものであって、神戸税関長は、第一審原告組合員等を含む神戸税関の職員の勤務成績の評定及びこれに基づく職員の昇任、昇格、昇給につき広範な裁量権を有するものであるから、神戸税関長の行為が、第一審原告組合員等に対する差別扱いであり、その裁量権を濫用する違法なものであるというためには、第一審原告組合員等と非組合員との間に給与格差が存在したというだけでは足りず、第一審原告組合員等各自が、本件係争期間中、勤務実績や能力等において、比較の対象とした非組合員より劣っていなかったことが個別的に立証されなければならないというべきである。ただ、神戸税関当局が控訴人組合及びこれに所属する組合員に対して差別意思を有していたことが認められる場合には、右事情は、他に第一審原告組合員等が非組合員に比して勤務成績や能力等において劣っていたなどの特段の事情がない限り、右の給与格差が差別意思に基づく差別扱いの結果であることを推認させるものであるということができる。
 これを本件についてみると、前記第五の一において判示したとおり、控訴人らが神戸税関当局による控訴人組合に対する攻撃であり、その所属組合員に対する昇任、昇格、昇給以外の差別扱いであると主張する行為のうち、組合役員に対する処分等は、組合活動を逸脱した違法な争議行為に対する処分等であって、いずれも正当な理由に基づくものであり、また、その他の行為も、当局が関与した行為は、それぞれ合理的な理由に基づくものであって、控訴人組合に対する不当な攻撃やその所属組合員に対する差別扱いがあったとは認められないし、また、前記第五の二で判示したとおり、東京税関文書や関税局文書から神戸税関長の控訴人組合に所属する組合員に対する差別意思の存在が認定できるとはいえない上、右三のとおり、第一審原告組合員等各自の勤務成績が、その比較対照した同年同資格で入関した非組合員のうちの平均的な処遇を受けている者あるいは最も劣位の処遇を受けている者のそれより劣っていないことや第一審原告組合員等の勤務成績が、集団的、全体的にみても、非組合員のそれより劣っていないことが証明されたとまではいえず、かえって、第一審原告組合員等の多くの者は、前記第六の三で認定したとおり、本件係争期間中、控訴人組合の活動の一環として、組合活動を逸脱した非違行為を繰り返し行い、これに対する上司の注意、命令に従わなかったものであって、その行為の性質、態様、回数などからみて情状が軽微なものとはいえないことや病気休暇及び事故扱いの休暇日数が相当あることなどこれらの者には、勤務成績を劣位に評定されてもやむを得ないような事情があることからすると、第一審原告組合員等各自の本件係争期間終了時における給与上の前記処遇は、神戸税関長が、その与えられた裁量権に基づき、本件係争期間中の各評定時期において、第一審原告組合員等各自の勤務成績を評定し、これを昇任、昇格、特別昇給等をさせる者の選定に反映させた結果にすぎないとみる余地は十分あるといえる。このような見方を否定して、第一審原告組合員等の右処遇は、神戸税関長が、第一審原告組合員等を控訴人組合の組合員であることを理由として、昇任、昇格、特別昇給等につき不利益扱いしたもので、その裁量権の範囲を超え、これを濫用した結果であることを窺わせる事情を認めるに足りる証拠はない。