全 情 報

ID番号 06885
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 丸萬産業事件
争点
事案概要  上司に対する暴言、勤務態度不良等を理由とする解雇につき、いずれも解雇事由に該当せず、権利濫用に当たり無効とした事例。
 賃金の一方的な不利益変更につき、明確な根拠もなく、また労働者の同意も得ていないとして許されないとした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項
民法1条3項
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1996年12月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 1953 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労経速報1625号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 Aは、各部門の責任者に業務体制、給与体系等の見直しが必要であることを述べていたが、同年四月上旬の会議において、給与からの「役職手当」及び「その他の手当」の削減という案を出した。しかし、債権者らは、右案には、同意しなかった(書証略)。
 (二) 平成八年四月一六日、Aは、債権者B、債権者C及びディスカウント店の管理等をしていた三名を呼び集め、会議を行ない、その席上、Aが、D会社の飲食店部門のお好み焼き店の売上げの減少等の責任が、すべて債権者金にあるように発言したことから、債権者金が、「どういうことですか」と言うと、Aは、「どういうこともそういうことや」と言い、債権者Cが、「納得できません」と言うと、Aは、「納得できへんかっても、お前のせいや」と言い、さらに、債権者Cが、「社長、首切りたいんでしたら、今、この場で切ってください」と言うと、Aは、「それを決めるのもお前が決めることや」と言ったので、債権者Cは、「わかりました。考えさせてもらいます」と言い捨てて、会議を途中退席した(書証略)。
 (三) 同月二〇日、債権者Cは、辞令を渡されたが、その辞令は、債権者CにD会社の飲食店部門責任者から配送係を命じるもので、さらに、役職手当、その他の手当を減給するというものであった。そこで、債権者Cは、同月三〇日、辞表を提出したが、Aから説得されて、辞表を撤回し、配送係として働くことになった。(書証略)。
 (四) 債権者Bは、平成八年五月一日、債務者から「お知らせ」と題する書面を渡されたが、その書面には、平成八年四月分給与より役職手当及びその他手当は全額支給されないと記載されてあった。そこで、同日、債権者Bは、なぜ役職手当及びその他手当が削減されるのか説明してもらおうとAに電話をし、そのやり取りの中で、Aが、債権者Bに対し「お前」呼ばわりを繰り返したことから、債権者Bは、Aに対し、「誰に、『お前』、言うてんねや」と暴言を吐いた。同月七日、平成八年四月分給与より役職手当及びその他手当が削減された債権者ら及びディスカウント部門の責任者三名は、債務者に役職手当及びその他手当削減の事情を聞きに行き、まず、債権者Bのみが、社長室に入り、Aと話したが、債権者Bは、Aに対し、「会社のために商標法違反になった。帰化できない。風営の許可がとれない。どうしてくれるんや」などと詰問した(書証略)。
 (五) 同月九日、前記ディスカウント部門の責任者三名が、Aに呼ばれ、平成八年四月分給与より削減された役職手当及びその他手当が支払われることになり、平成八年四月分給与より役職手当及びその他手当が削減される者は、債権者ら二名のみとなった(書証略)。
 (六) 債権者らは、平成八年六月二〇日、債務者に対し、同年四月からの役職手当等削減に対し法的手段を取る等の内容証明郵便を送り、同月二一日、到達した。債務者は、債権者らに対し、平成八年七月一一日到達の書面により、同年八月一一日をもって解雇する旨の意思表示をした(書証略)。
 2 債権者らの勤務状況
 (一) 債権者Bは、前記のとおりホテル部門の責任者であったことから、平成八年二月ころ、Aから売上金を毎日、責務者本社に持参するようにと命じられ、二、三日に一度、債務者本社に売上金を持参するとともに毎日の売上状況表を渡していた。また、同月、Aから業務日報を毎日、記載し、提出するように、その後、最低、三日に一回は提出するようにとの指示を受け、同月一七日から業務日報を記載し、債務者本社に売上金を持参する際、業務日報も提出していたもので、二月は一回、三月は三日ないし四日に一回、四月は三日ないし五日に一回、六月及び七月は二日か三日に一回という提出状況であった。しかし、五月は記載せず、提出しなかった。さらに、平成七年にAから日曜日出勤の指示があったが、債権者Bは、ホテルの勤務状態から日曜日に休日を取らざるをえなかった(書証略)。
 (二) 債権者Cは、平成六年四月から同八年四月まで飲食部門七店舗の責任者であったが、同六年四月以前から店舗の売上げは減少していたもので、債権者Cは、業績を上げるために売上げ改善の具体策や店舗の修理、改修という案を提出したが、債務者に受け入れられなかった。また、平成八年二月、Aから業務日報を毎日、記載し、提出するように、その後、最低、三日に一回は提出するようにとの指示を受け、同月一五日から業務日報を記載し、二月は一週間に一回、三月は三日ないし四日に一回、五月以降七月まで三日ないし四日に一回という提出状況であった。しかし、四月は記載したが、提出しなかった。さらに、Aの指示に従い、平成六年四月から同八年一月までは債務者本社で午前九時から午後六時まで勤務し、平成八年二月からは飲食店での勤務は、午後四時から午後一一時という夜間勤務をし、日曜日は、殆ど出勤していた(書証略)。
 二 そこで、まず、本件解雇の効力について、検討する。
 1 債務者は、債権者Bについて、解雇事由として、第二、二2(一)(1)〔1〕ないし〔3〕記載の事由を主張し、また、債権者Cについて、解雇事由として、第二、二2(一)(2)〔1〕ないし〔3〕記載の事由を主張するが、前記一1及び2認定の事実によれば、債権者らについて、債務者主張の解雇事由すべてを認めることはできない。
 2 債権者らについて認められる右一1及び2の事実を前提に本件解雇の効力を考えるに、債務者が、債権者らに対し、右一1及び2認定の事実を理由として、解雇をもって処するのは重きに過ぎるというべきであって、結局、本件解雇は、社会通念上相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用にあたり無効というべきである。従って、債権者らは、債務者に対して雇用契約上の権利を有する地位を有するものであることが認められる。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 2 賃金は、労働契約内容の重要な要素であるから、明確な根拠もなく、労働者の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないものと考えるが、前記一1認定の事実によれば、債権者ら二名のみが役職手当及びその他手当1を削減されており、債権者らが、右賃金の減額について了承していたという事実は認められず、債務者が一方的に賃金を減額したもので、そうすると、本件において、債務者は、明確な根拠もなく、債権者らの同意を得ることなく、債権者らの賃金を一方的に不利益に変更したことは明らかで、なんらの効力をも有しないと考える。従って、債務者は、平成八年五月以降も役職手当及びその他手当1削減前と同一内容の賃金支払義務を免れないものと考える。