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ID番号 06904
事件名 減俸発令無効確認請求事件/損害賠償請求事件
いわゆる事件名 JR東日本(仙台鉄道管理局)事件
争点
事案概要  旧国鉄の職員時代に動力車乗務員から駅直営販売店の営業係に異動させられた職員が、JR発足後、動力車乗務員の兼務を解かれ賃金規定により二年間の期限後、基本給を二号俸ないし三号俸減じられ、右兼務の解職発令の無効確認と賃金差額分を求めて争った事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1997年1月30日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 742 
平成8年 (ワ) 602 
裁判結果 一部却下,一部棄却(控訴)
出典 労働判例716号88頁
審級関係
評釈論文 近藤昭雄・労働判例722号6~12頁1997年11月1日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 1 被告が原告Xらに対し、昭和六三年四月五日付で本件兼務解職発令をしたことは、当事者間に争いがない。
 原告Xらは、A事件において右兼務解職発令の無効確認を求めているところ、一般にこのような過去の法律行為の無効確認訴訟が許されるのは、その無効を前提とした現在の権利又は法律関係の存否の確定では紛争の解決ができないなど、特段の利益が存する場合に限られる。しかるに本件の場合、原告Xらは、本件兼務解職発令が無効であることを前提として、不法行為に基づく損害賠償請求の給付の訴えも併せて提起しており、かつ、右発令の無効を確認しても、当然に現在の給与号俸が変更になるなどして紛争の一回的解決が可能であるとはいい難く、右過去の法律行為の無効確認を求めなければならない特段の利益があると認めることはできない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 以上認定の事実によれば、原告Xらと被告との間で労働契約が締結されるにあたり、原告Xらの職種を動力車乗務員に限定する旨の明示もしくは黙示の合意は何ら形成されておらず、右のような限定は労働契約の内容となっていないものというべきであり、他に、右合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 使用者による配転命令は(国鉄による兼務発令及び被告による兼務解職発令も、使用者の権限濫用を論じるにあたってはこれと性質を同じくするものと解される。)、これによって労働者に対してその生活関係に少なからぬ影響を与える可能性は否定できないので、使用者にその裁量に基づく配転命令権が認められる場合であっても、これを無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することが許されないことはいうまでもない。ただ、右濫用にあたる場合としては、当該配転命令につき業務上の必要性が存在しない場合、又は業務上の必要性が存する場合であっても当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるときもしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情の存する場合に限られると解するのが相当である。〔中略〕
 原告らが主張する原告Xらが動力車乗務員として勤務していた時点で支給されていた各種手当については、被告において右手当は動力車乗務員に対してのみ支給されるものではなく、かつ勤務の危険性や重要性を考慮する趣旨で手当が支給されるものである。つまり、右各種手当は、被告における特定の労務の困難性や職務に伴う出費の必要性を考慮して支給される趣旨であって、右特定の労務を離れた者に支給されないのはむしろ当然である。
 したがって、原告ら主張の右不利益は、昭和六三年四月一日の被告賃金規程三〇条八項の改正及び本件減俸発令までの定期昇給及びベースアップによって相当程度補われていると認めるのが相当である。また、原告Xらの本件兼務発令による勤務場所の変更は、仙台運転区もしくは宮城運転区からいずれも仙台駅であったことなどをも併せ考えると、右に述べたほかに、原告Xらの不利益を認めることはできない。
 よって、原告Xらの本件兼務解職発令及び賃金減額に伴う不利益は、通常甘受すべき程度を著しく超えるものとまでは評価できず、この点に関する原告らの主張は理由がない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 被告においては、被告就業規則二八条一項で業務上の都合により従業員に対し異動を命ずることができ、同二項で従業員は正当な理由なくこれを拒絶できないとされているのであるから、被告は、原告Xらの個別的同意なしに業務上の必要に応じてその裁量により原告Xらの配置を決定し、もしくは兼務発令又は配置転換を命じて異動せしめた上、労務の提供を求める権限を有していたものというべきである。
 そして、被告においては、その設立当初から多くの余剰人員を擁しながら事業経営をする必要に迫られていたところ、そのための方策として、関連事業を積極的に展開することによって、その有効な活用を図るべきことが、その成り立ちからして、必須のものとされていたものであり、また、このことが同時に余剰人員の雇用の確保にも通じるものとされていたのである。
 このことは、東北地域本社においても同様で、仙台駅等における飲食店、物品販売店等の関連事業は、東北地域本社の営業活動の重要な柱であり、その事業の展開は多数の余剰人員の活用の観点からも必要不可欠なものであった。しかも、この場合、原告Xらのように動力車乗務員であった者のみならず、その他の職種にあった者も多数業務命令によって営業係等への異動を必要とする状況にあったものであり、被告発足後の関連事業における組織体制の整備、兼務解職発令により右関連事業に専従することになったものである。
 そして、これら一連の経過に鑑みれば、本件兼務解職発令に格別不合理な点は見い出し難く、配転命令権の濫用があったと認めることはできず、他に、これを認めるに足りる証拠もない。