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ID番号 06919
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東京セクシュアル・ハラスメント事件
争点
事案概要  会社の女性従業員が、社長からセクシュアルハラスメントを受けたとして、社長及び会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法44条1項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1997年2月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 11838 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ947号228頁
審級関係
評釈論文 梅本圭一郎・平成9年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊978〕306~307頁1998年9月
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 (一) 被告Yは、平成四年八月ころから平成五年七月ころまでの間に一か月に数回にわたり、被告Yと原告が被告会社の事務室で二人だけになったとき、殊にサッポロビールのちらし等の発送作業を行う際に、原告の手や尻に触り、あるいは倒れかかったふりをして抱きつく等の行為を行った(なお請求原因2(一)及び(二)のうち、これ以外の時期については他の者も一緒に作業を行っていたし〔前記一3〕、その他の点については具体的にこれを認めるに足りる証拠がない。)。
 (二) 被告Yは、原告が入社してから平成六年二月七日ころまでの間、少なくとも数回にわたり、勤務中の原告に対し、生理のことに関して「まだあるのか、おかしいんじゃないか。女房はとっくに終わってるぞ。」「若い子だったら聞けないが、量は多いのか。」等と聞いた。
 (三) 被告Yは、平成六年二月七日午後四時ころ、被告会社の事務室の中で原告を追いかけ回し、捕まえて羽交い締めにして、「おしっこしーしー」と言いながら、母親が後ろから幼児を抱えて小便をさせるような格好をさせ、原告が泣いていると再度追いかけ回して同じことを行った。
 ところで、被告Yは右各行為を否定する供述をする(陳述書〔乙一〕)が、サッポロビールの発送作業について現実には被告Yも一緒に行い、作業自体は席を立って行うことも多いのにもかかわらず〔前記一3〕、被告Yは手伝うことが稀であるとか、あまり動く必要もない等の主張や供述を行っていること、被告YがAに対して原告の悪口や私生活のことを話しているのにもかかわらず〔甲四〕、被告Yは女性社員とは個人的なことや私的なことは話さない旨の供述をしていること、原告が被告Yと居酒屋へ行かなくなったのは平成六年二月七日以降であるのに〔前記一4〕、被告Yは平成六年四月ないし五月以降であると供述している等、被告Yの供述には全体として信用できない部分が多いことに加え、Aも被告Yから肩を押さえられたり、頭を抱きかかえられたりすることがあったと認められること〔甲四〕、平成六年二月七日の出来事については、原告の供述が極めて具体的であり、それ以降原告が被告Yに事務的な態度で臨んでいるとの原告の供述には合理性があるのに対し、被告Yは原告の態度が変わった時期について虚偽の供述をしているうえ、その理由について合理的な説明をしていないこと等に照らすと、被告Yの右各行為を否定する供述は採用できない。
 そして、被告Yの右各行為は、原告の人格権を違法に侵害するもので不法行為を構成するものと認められ、これらによる慰謝料損害については、前記認定の右各不法行為が行われた状況、態様、頻度、原告と被告Yの普段の状況、その他一切の事情を斟酌すると五〇万円をもって相当と認められる。〔中略〕
 原告は、被告Yの違法な解雇により、結果的に被告会社で勤務を続けることができなくなったのであるから、被告Yの右行為は不法行為を構成するものと認められ、慰謝料損害については、前記認定の解雇の理由と原告の従前の勤務態度、原告は違法な解雇であっても結果的にこれを受け入れて被告会社で勤務を続けることができなくなったこと(原告、弁論の全趣旨)、原告の一カ月分の賃金が二七万円であったこと(甲五)、その他一切の事情を斟酌すると五〇万円をもって相当と認められる。〔中略〕
 1 前記二1(一)ないし(三)で認定した不法行為は、勤務時間中に被告会社の事務室内で行われたものであるし、原告がこれを拒絶できなかったのは、被告Yが被告会社の代表者としての地位を利用して行った行為であったためと認められる(原告、弁論の全趣旨)。したがって、右各不法行為は、被告Yの代表者としての職務執行と密接な関連性が認められ、被告会社は、これについて民法四四条一項により、被告Yと連帯して責任を負うべきものであると認められる。
 2 前記二4で認定した不法行為は、従業員たる原告を解雇したもので、被告Yが被告会社の代表者としての職務執行として行ったものであるから、被告会社は、これについて民法四四条一項により、被告Yと連帯して責任を負うべきものであると認められる。