全 情 報

ID番号 06925
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 大分鉱業事件
争点
事案概要  本件解雇協議条項は懲戒解雇には適用されないとした事例。
 賞罰委員会への組合側の不参加は、組合がこれを拒否したものであり、審議手続は履践されているとした事例。
 代金着服、勤務成績不良等を理由とする、組合分会長に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらないとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1997年3月19日
裁判所名 大分地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 38 
裁判結果 却下
出典 労経速報1639号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 3 以上、検討したところによれば、前記2(一)、(四)、(五)及び(七)の点において、債権者には、賞罰規程に定められた懲戒解雇事由に該当する行為が認められ、これらの事由からすると、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用に該当しない。
〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 1 解雇協議条項が適用されるか否か。適用があるとした場合、同条項違反の有無及びその効果。
 証拠(略)によれば、債務者と組合は、昭和五六年四月一日、「会社は、賃金、労働条件を変更するとき、とりわけ労働者の解雇、希望退職募集、一時帰休などを行うときは、事前に組合と充分な協議を行う」との労働協約を締結し、さらに、債務者と組合は、平成三年七月一日、右労働協約等に関する事前協議を再確認する旨の協定書を締結していることが疎明される。そこで、右解雇協議条項が懲戒解雇にも適用されるか否かにつき検討するに、債務者と組合との昭和三九年一〇月八日付け労働協約書(書証略)によれば、第二七条において、組合員の賞罰に関する事項は、別に定める賞罰規程及び賞罰委員会規程(同日施行)によるとし、賞罰委員会規程第二条では、本委員会は、労働協約二七条に基づき、会社と組合が組合員の賞罰事項を迅速、公平に審議し、もって信賞必罰を期するを目的とすると規定し、第三条では、本委員会の委員は、会社、組合双方各三名とすると規定しているところ、右規程の存在及び内容等に照らせば、同規程は、懲戒解雇を始めとする債務者の懲戒権の行使に組合の意思を反映させ、これによって、債務者の懲戒権行使の公平を期するものであって、前記解雇協議条項の成立に先立ち、懲戒権行使につき、実質的かつ具体的な協議(審議)の方法、手続を規定したものであると解することができる。そうすると、前記解雇協議条項は、懲戒解雇につき、賞罰委員会の審議とは別に、さらに債務者に組合との事前の協議を要求しているものとは解されず、したがって、本件においては、解雇協議条項は懲戒解雇には適用されないと解するのが相当である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 (二) 前記1で検討した賞罰委員会規程を定めた趣旨、解雇協議条項との関係等からすれば、同委員会の審議を経ていない懲戒解雇は、特段の事情のない限り、その手続に重大な瑕疵があるものとして無効であると解すべきところ、前記(一)で疎明されたとおり、本件においては、債務者側委員のみで賞罰委員会の審議を行い、債権者が、債務者の主張するとおりの賞罰規程に抵触する行為をしたことを認める旨の結論を出しているのであるが、右(一)の疎明事実を総合すれば、組合は、組合側委員を選任することなく、賞罰委員会の審議に参加することを拒否したものであり、しかも、組合は、賞罰委員会規程の不備を主張し、同規程に関する団体交渉の際、債務者が提示した同規程の改訂案に返答するとしながら、そのまま放置しており、右拒否の理由について合理性が認められない(平成八年一月一〇日付け賞罰委員会開催通知中の委員選任に関する前記記載についても、不合理な記載とはいえない)ことからすると、債権者は、実質的な弁明の機会が付与されていたのに、自ら、それを放棄したものと解され、結局、本件懲戒解雇については、実質上、賞罰委員会の審議手続は履践されたものと解するのが相当である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 2 そこで、前記第二の二3「債権者の主張」(一)記載の主張につき検討するに、右疎明におけるA社長の発言内容と経緯に照らせば、これをもって、組合の弱体化、壊滅を狙った不当労働行為意思を推測させるものであるとはいえず、また、A社長が右協定書案に「考一五パーセント」という文言を秘かに挿入して、組合に調印させようとしたことを認めるに足りる疎明はないから、債権者の右主張は採用できない。次に、右「債権者の主張」(二)記載の主張については、債務者(A社長)の行った人事異動が、組合の弱体化及び組合内の分断につながるものであること及び同社長が人事異動についての債務者と組合との間における誠実な事前協議という労働協約、労使慣行の存在を無視したことを認めるに足りる疎明はないから、債権者の右主張は採用できない。さらに、右「債権者の主張」(三)記載の主張については、右疎明における債権者及びB副分会長の各配転の理由と事前の手続、債権者の沖縄出張の理由と事前の手続によれば、債権者の右主張は理由がない。さらに、右「債権者の主張」(四)記載の主張については、A社長及びC所長が、半ば脅して、強引に債権者を依願退職させようとしたことを認めるに足りる疎明はない上、前記一(争点1)で検討したとおり、債権者には、賞罰規程の懲戒解雇事由に該当する行為が複数存在しているのであるから、債権者が組合の分会長であったことを前提としても、依願退職を示唆したことが、組合の弱体化、壊滅を狙ったものであると解することはできないので、債権者の右主張は採用できない。また、右「債権者の主張」(五)記載の主張については、前記二(争点2)で検討したところによれば、債権者の右主張は採用できない。