全 情 報

ID番号 06927
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 新日本通信事件
争点
事案概要  仙台支店から大阪本社への配転命令を受けた労働者が勤務地限定の合意に反する命令であるとして配転命令を拒否した後、勤務成績不良を理由として解雇され、右の配転命令及び解雇の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1997年3月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 401 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労経速報1649号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 前記認定の事実に照らせば、原告は、採用面接において、採用担当者であったAに対し、家庭の事情で仙台以外には転勤できない旨明確に述べ、Aもその際勤務地を仙台に限定することを否定しなかったこと、Aは、本社に採用の稟議を上げる際、原告が転勤を拒否していることを伝えたのに対し、本社からは何らの留保を付することなく採用許可の通知が来たこと、その後被告は原告を何らの留保を付することなく採用し、原告がこれに応じたことがそれぞれ認められ、これに対し、被告が転勤があり得ることを原告に明示した形跡もない以上、原告が被告に応募するに当たって転勤ができない旨の条件を付し、被告が右条件を承認したものと認められるから、原告、被告間の雇用契約においては、勤務地を仙台に限定する旨の合意が存在したと認めるのが相当である。〔中略〕
 本件配転命令は、勤務地限定の合意に反するものであり、原告の同意がない限り効力を有しないというべきところ、原告が本件配転命令に同意しなかったことは当事者間に争いがないから、本件配転命令はその余の点を判断するまでもなく無効であるということができる。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 被告は、本件解雇の理由として、原告が、大阪本社に赴任後、命じられた仕事をせずに業務を放棄し、執拗に待遇改善を要求するなどして上司の業務を妨害したこと及び原告の勤務成績が著しく不良であったことを挙げるので、以下検討する。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告は、仕事の進捗状況の報告やレポートの提出を必ずしも上司の指示通りに行っていなかった一方で、自己の処遇の改善要求については極めて熱心であり、上司に対してこれを要求し、しばしば詳細な要求文書を作成して被告に提出していたことが認められる。
 しかしながら、上記認定の事実に、(証拠略)を総合すれば、原告は、一応は上司に指示されたテーマについて調査研究に従事していたことが認められること、被告が大阪転勤後原告に与えたテーマは、当初のマーケットボリューム調査を除き、いささか抽象的かつ広範囲にわたるものであって、直ちに目に見える成果を挙げることは困難な性質のものであると考えられることに鑑みると、原告が必ずしも被告の期待する成果を上げなかったからと言って、業務を放棄していたとまでは評価することはできない。(なお、被告は、(書証拠)が被告に提出されたこと及び(書証略)が本件解雇前に作成されたことを争うが、(書証略)が被告に提出されていたか否かはさほど重要な問題ではないし、(書証略)が本件解雇後に作成されたものであったとしても、前記認定及び評価が左右されるものではない)。現に、前記認定のとおり、本件解雇の直前である平成六年四月に行われた、原告の平成六年度の昇給査定における成績評価は、五段階評価(AからEまで)のD評価(なお、これは、水準にほぼ達しているが、多少の改善が必要で、上司から必要最小限度の援助を受けたというものである)であって、最低のE評価ではなく、被告において、原告が顕著に評価が低いというものではないのである。そして、原告は、同年に九六〇〇円(ただし、うち六一〇〇円は新人事制度導入に基く調整分)の昇給を受けているのである。
 また、処遇改善の要求についても、その頻度はいささか常識の範囲を超えている感がないわけではないが、その大部分は転勤に伴う諸手当等の増額要求であり、自己の意に反して転勤させられた原告が、転勤に伴う労働条件の悪化を防止するための要求を行うことは、理解できないではなく、むしろ被告による違法な配転命令が原告の処遇改善要求を激化させたものと評価すべきであること(書証略によれば、原告の処遇改善要求は、転勤直後から平成六年二月頃にかけて顕著であり、その後は頻度も減少したことが窺われる)、原告の要求の中には、後に労基署の是正勧告によって被告も応じざるを得なかったものもあり、原告の要求がかならずしも理由のないものばかりではなかったと考えられること等に照らせば、原告が被告に対し処遇改善要求を繰り返したことについて、原告を強く非難することはできないというべきである。また、原告の処遇改善要求によって、被告の業務が具体的に妨害されたことを認めるに足りる証拠は何ら存在しない。
 以上を総合すると、被告が、前記認定の原告の勤務状況等を理由に、就業規則(書証略)の定める解雇事由である「業務能力又は勤務成績が著しく不良のとき」に該当するとして、原告に対し、本件解雇をしたことは、著しく社会的相当性を欠き、解雇権を濫用するものというべきであるから、右解雇は無効である。
 4 本件解雇及び本件配転命令がいずれも無効であることから、原告は、被告に対し、被告の仙台支店において勤務する地位を有し、被告は原告の就労を拒んでいるから、原告は被告に対し、賃金の支払を請求する権利を有するということができる。