全 情 報

ID番号 06930
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 メデューム事件
争点
事案概要  不動産仲介業者である会社の営業社員が、その仲介行為によって土地販売契約及び建物請負契約を成約させたとして、未払の歩合給を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金請求権の発生時期・根拠
裁判年月日 1997年3月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 1288 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例726号66頁
審級関係 控訴審/06982/東京高/平 9.10.16/平成9年(ネ)1558号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-賃金請求権の発生時期〕
 被告は、平成五年一〇月ころ、不動産仲介物件の紹介を新聞折り込みのチラシによって広告をしたところ、同月三日、A、B両名から問い合わせがあった。そこで、被告は、右の営業担当者を原告とし、以後、原告が右A、B両名との折衝に当たることとなった。原告は、当初、右両名を右広告物件に案内したが、成約するに至らず、そこで、さらに他の物件を案内し、約一五件の物件を案内したところで漸くにして本件甲の契約を成約させるに至った。
 右認定事実によると、本件甲の契約は原告の仲介行為によって成約に至ったものということができる。
 ところで、被告は、原告は不動産仲介に関する知識・経験に乏しく、本件甲の契約も上司の補助者的な立場において仲介業務を担当したに過ぎないのであるから本件甲の契約についての仲介行為をなしたとはいえない旨主張し、被告代表者も同旨の供述をする。
 しかし、被告の右主張及び被告代表者の供述は、被告は原告を歩合給の営業社員として前記雇用条件の下で採用したことと矛盾しているばかりか、原告は、右に認定したとおりの仲介行為をなして本件甲の契約を成約するに至らしめたのであり、このことは仲介業務の中心的業務であるということができるから、採用することができない。
 また、被告は、被告の仲介業務は建物建築条件付土地売買契約にあたったのであり、建物の竣工引渡しの完了までになすべき多くの設計や仕様の変更等の業務に携わって仲介業務をしたといえるところ、原告は本件甲の契約成約後、住宅ローンが確定し、建物建築に取りかかった段階で退職したのであるから、仲介業務をしたということはできない旨主張し、被告代表者も同旨の供述をする。
 しかし、原告が被告に対し歩合給を請求することができるためには、仲介手数料が入金されることと、当該支給対象契約の停止条件が解除されることの二つの要件が充足されることによってであることは前述したところから明らかであるし、このようなことから被告は原告に対し本件甲の契約についての一部歩合給を支払っていることを理解することができる。
 被告の主張する様々な顧客対応は、被告の営業の在り方としては十分首肯することのできるところではあるが、原告がこのような顧客対応をしなければ歩合給が発生しないということはできず、建物の設計変更は施主と請負人との間の問題であって仲介行為の要素とは考えられないし、仕様の変更についても同様である。
 なお、原告は、平成五年一二月から約六〇日間交通事故のために入院し、その後は通院していたために被告の期待するとおりの業務を遂行することができなかった(原告及び被告代表者の各供述)のであるが、このことは原告の健康上の理由によることであるからやむを得ないということができるし、また、原告の退職に関しても原告は被告代表者の執拗な退職の求めに抗しきれずにやむなく退職せざるをえなかった(原告の供述)のであるから、原告の退職を原告に責任があるかのように考えることはできない。
 したがって、被告の右主張及び被告代表者の供述も採用しない。
 そうすると、被告は原告に対し、本件甲の契約成約の仲介行為による約定歩合給及びこれに対する原告の主張する遅延損害金の支払い義務がある。〔中略〕
 被告は、平成五年九月ころ、不動産仲介物件の紹介を新聞折り込みのチラシで広告したところ、同月五日、C及びDから問い合わせがあり、この営業担当者として原告以外の社員が割り当てられた。しかし、同社員はC、D(ママ)両名との間で成約するに至らなかったので、約一か月経過後に原告がC、D両名に電話をして営業活動をするようになった。原告は、以後、C、D両名に対し、約一か月間に亘り仲介物件として約三〇件を紹介し、漸くにして本件乙の契約を成約するに至らしめた。
 右認定事実によると、本件乙の契約も原告の仲介行為によって成約するに至ったということができる。
 ところが、被告は、本件乙の契約に関しても本件甲の契約に関してと同様の主張をして争っているが、この点については本件甲の契約に関して述べたと同様の理由によりいずれも採用できない。
 そうすると、被告は原告に対し、本件乙の契約成約の仲介行為による約定歩合給及びこれに対する原告の主張するとおりの遅延損害金の支払い義務がある。