全 情 報

ID番号 06944
事件名 労働契約関係確認等請求事件
いわゆる事件名 南労会事件
争点
事案概要  理事に対する暴言、事務長に対する誹謗中傷、診療所待合室へのビラの無断貼付等を理由として懲戒解雇された労働者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1997年4月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 2056 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1641号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 証拠(略)によれば、平成三年八月六日午前一一時頃、Aは、腰痛の治療のため、B診療所理学診療科で鍼治療を受けた後、B診療所一階受付窓口において、自分は理事であるが治療費を支払う必要があるかどうか尋ねたところ、応対した原告は、他の患者が待合室にいたにもかかわらず、Aに対し、大声で「おまえ、理事だろうが、組合の言うことを聞けよ。組合をなめんなよ」と発言したことが認められる。
 原告の右行為は、一般の患者の立場で治療に訪れたAに対し、他の患者のいる前で、言葉汚く罵って暴言を吐き、威嚇したものであって、右行為が被告による新勤務体制導入の翌日であり、前記のとおり被告と組合が厳しく対立している時期にされたものであること及びAが被告理事であることを考慮しても、到底正当な行為であると評価することはできず、これは、職場規律を著しく乱し、かつ、職員としての品位、診療所の名誉、信用を著しく失墜させる行為であるというべきであって(就業規則第一六条八号、第一七条二号参照)、その情状も、極めて重いものがあるというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 以上の事実に照らせば、一介の事務職員に過ぎない原告は、Cが当日出勤していた原告ら三名で医事課の受付業務を処理するよう指示したにもかかわらず、これに全く耳を貸さず、上位の地位にある事務長のCが自己の意に沿った行動をしないことを理由にして、無謀にも、専らCを誹謗、中傷することを目的として本件貼り紙を提示したのであって、右は、本末転倒の所為であって、極めて悪質であるということができる。また、受付窓口にこのような貼り紙がされたことにより、患者に不安を与え、かつ、被告の信用を著しく毀損せしめたというべきである(就業規則第一七条二号、三号及び六号参照)。原告の右行為の情状の重さは、その背景に、前記のとおり勤務体制に関する被告との組合の根深い対立関係が存在したことを考慮したとしても、極めて著しいものがある。
 (三) これに対し、原告は、本件貼り紙の掲示は組合の方針に基づく組合活動であると主張する。しかしながら、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によっても、組合の方針決定がされていたのは、Cの業務を肩代わりしないこと、そのために業務が停滞する場合には患者に対し事情を説明して理解を得ることにとどまるものと認められるところ、本件貼り紙は、前述のとおりCをことさらに誹謗、中傷し、被告の信用を毀損する内容のものであって、到底患者に対して事情を説明し理解を得るためのものとは認められないから、原告の右主張は失当である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 2(一) B診療所の就業規則によれば、賞罰は賞罰委員会の議に付した上で診療所が決定するものとされており、その趣旨は、同数の理事会側委員及び職員代表委員によって構成される賞罰委員会の議を経ることによって、診療所の賞罰権行使の公正さを担保することにあると解されるから、懲戒処分を行うためには、原則として賞罰委員会を開催する必要があると解すべきである。もっとも、前記のとおり、賞罰委員会の運営に関する規則が定められていない場合においても、常に賞罰委員会が開催できないものと解するのは相当でなく、合理的かつ公正な方法により開催することができるものと解すべきであり、また、就業規則によれば賞罰が診療所の権限とされていることは明らかであるから、最終的には賞罰委員会は被告が開催することができると解すべきであって、組合との合意がない限り開催できないものと解すべきではない。
 (二) 以上の見地から本件賞罰委員会について検討すると、前記認定の事実によれば、被告は、本件賞罰委員会を開催するに際し、組合との団交を六度にわたって行っており、必ずしも、不当に団交を拒否していたものとはいえず、また、賞罰委員会の職員代表委員についても、第一回及び第二回の賞罰委員会の当初の人選は一応、合理的であり、しかも人選についての意見を組合に求めているのに対し、組合は、団交において、原告の行為を賞罰委員会に付すかどうか自体を団交で決するべきであるとの立場に固執して、賞罰委員会の開催自体を認めず、職員代表委員の人選についての意見を求められた際にもこれに適切に応答せず、第二回賞罰委員会においては委員会当日になって組合側の選任した委員の出席を要求するなどの行動に出ているのであって、第一回及び第二回の賞罰委員会が理事会側委員のみによって開催されたことについては、主に組合側に責任があることは明らかである。第三回賞罰委員会においては、被告において組合対策の中心を担う者を職員代表委員に選任したことは、問題がなくはないが、この点も、組合側が、原告の行為を賞罰委員会に付すかどうか自体を団交で決するべきであるとの立場に固執し、賞罰委員会の開催自体を認めないなどの姿勢であったとの事実、右賞罰委員会においては、D労会支部組合員の全員が懲戒の対象とされていたこと等に鑑みるとき、やむを得ない余地も存するのであって、この点をもって、重大な手続違背とまでいうことはできない。以上によれば、被告が原告に対し本件懲戒解雇をするに際し、手続上重大な瑕疵があったということはできない。したがって、この点が本件懲戒解雇を無効ならしめるものでないことは明らかである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 前記認定の事実によれば、被告が経営合理化等のための各措置を採るなどしたため、かねてより、被告とD労会支部との間には、厳しい労使対立と紛争が存したが、原告のなした、金銅に対する暴言、Cに対する誹謗中傷、ビラの無断貼付及びEに対する脅迫、強要は、右紛争状況を背景としてなされたものではあるが、被告設立の経緯、被告運営の実態、背景にある紛争状況等を考慮しても、被告が慢性的に厳しい経営状況にあったこと、本来、経営権、人事権は被告に帰属すること、被告の経営合理化等のための各措置が一概に不合理なものであると断定するに足りないこと、原告の各行為は、いずれも、組合活動とは無関係であり、仮に何らかの係わりがあるとしても、正当な組合活動とは到底評価しえないことなどに鑑みるとき、個々的にみても、いずれも悪質であって、その情状には特に重いものがあり、さらに、これらを全体として、総合して見た場合には、各行為の内容、態様、頻度等に鑑み、その責任は重大で、極めて情状が重いというべきであるので、被告が原告に対し、就業規則一九条一号に該当するとして、本件懲戒解雇をしたのも致し方ないところであって、本件において、とりたてて、被告が原告の組合活動を嫌悪し、組合を弱体化させる等の意図で原告に対し、本件懲戒解雇をしたというべき事情はない。したがって、本件懲戒解雇が不当労働行為に該当するということはできない。