全 情 報

ID番号 07002
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本電信電話事件
争点
事案概要  退職予定日を一二月三一日として希望退職を申し出た者に対し、同人が支店長でテレホンカード管理責任者の立場にありながら、換価性の高いホワイトカード一万枚(五〇〇万円相当)を隠匿したことを理由に、同月二八日に懲戒解雇したケースにつき、企業秩序のみならず明らかに社会秩序に反する行為であって、被告の社会的信用を著しく損なうものであり、懲戒解雇は正当であって、懲戒権の濫用とはいえないとされた事例。
 就業規則における退職金不支給規定の適用は、労働者のこれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまう程度の著しく信義に反する場合に限られるが、本件では、テレホンカード管理責任者がホワイトカード一万枚(五〇〇万円相当)を隠匿したものであり、退職金の不支給には理由があるとされた事例。
参照法条 労働基準法16条
労働基準法24条
労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1997年4月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 1979 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1638号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 三 本件懲戒解雇の相当性について
 原告は、本件懲戒解雇が重きに失し、懲戒権の濫用である旨主張する。
 しかし、前記一認定事実によれば、原告は、本件カード持ち出し当時は、被告神戸支店公衆電話部部長、その発覚時は、新会社神戸支店長というテレホンカード管理責任者の立場にありながら、換価性の高いホワイトカード一万枚(五〇〇万円相当)を隠匿したものであること、当時被告公衆電話部は、新会社への移行期であり、テレホンカードの在庫など会社財産の引継のために、よりいっそう在庫管理を厳格にすべき状況にあったにもかかわらず、むしろこの機に乗じて隠匿がなされたことが窺われること、結果的には、実害がなかったとはいえ、Aの申告がなければ、帳簿上の不符合がなく、新会社が発足したことにより、被告にも、新会社にも隠匿行為が発覚せずに隠匿が成功する危険性の極めて高い行為であったこと、右隠匿行為は、企業秩序のみならず明らかに社会秩序に反する行為であって、被告の社会的信用を著しく損なうものであることに照らせば、本件懲戒解雇は正当であって、懲戒権の濫用とはいうことができない。
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 四 退職金不支給の相当性について
 被告の就業規則七〇条(書証略)によれば、懲戒解雇の場合、退職手当は、支給しないとされているところ、退職金の性格からは、このような退職金不支給規定を有効に適用できるのは、労働者のそれまでの勤続の功労を抹消(全額不支給の場合)ないし減殺(一部不支給の場合)してしまう程度の著しく信義に反する行為があった場合に限られると解するのが相当である。
 前記一認定事実によれば、原告は、被告に約三〇年間勤務したものであるが、右三認定のとおり、原告は、本件カード持ち出し当時は、被告神戸支店公衆電話部部長、その発覚時は、B会社神戸支店長というテレホンカード管理責任者の立場にありながら、本件カードの持ち出しに及んだものであって、右隠匿行為は、企業秩序のみならず明らかに社会秩序に反する行為であって、被告の社会的信用を著しく損なうものであるから、それまでの勤続の功労を抹消してしまう程度の著しく信義に反する行為があったといわざるを得ない。
 したがって、被告が、原告に対し、就業規則に従い退職手当を支給しないことは、不当とはいえない。また、原告は、希望退職が認められる以前に懲戒解雇されているので、転進特別一時金及び希望退職一時金の請求権も有しない。