全 情 報

ID番号 07004
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 寮生転落死事件
争点
事案概要  寮生活を義務づけられた未成年の従業員が、入口が施錠された後に雨樋づたいに三階の窓から部屋に入ろうとして、そこから転落死亡した事故につきその両親が会社に対して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求した事例(請求一部認容)。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1997年5月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 13456 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1626号102頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 被告は、本件建物の二階を従業員の寮として利用していたものであるが、寮には中学を卒業したばかりの従業員が入寮することになっており、まだ遊びたい盛りの若者もいたこと等を考えれば、そのような寮居住者が一階入口施錠後に帰寮したような場合には、一階入口以外の危険な場所から本件建物内に侵入しようとし、その結果、怪我等をすることも十分ありうるところであったから、被告としては、施錠後に帰寮した場合でも一階入口以外の危険な場所から本件建物内に侵入するような危険な行動をとらないよう十分注意するとともに、旋錠時刻を帰寮可能な時間にきちんと定め、それまでに帰寮するよう指導教育するとか、あるいは、営業終了時刻がまちまちで施錠時刻を定めにくいというのであれば、施錠後でも寮居住者が容易に帰寮できるような方法を確立しておく安全配慮上の義務があったのにこれを怠り、一定の施錠時刻を定めて予め寮居住者に知らせることなく、被告経営者家族らの都合で日々まちまちの時刻に寮居住者の帰寮の有無を確認することなく施錠し、施錠後の帰寮者に対し右危険な行動をとらないよう注意することもなく、また、訴外Aが亡Bを含む寮居住者に対し、従業員教育とはいってもいささか度を超えた厳しい叱責を繰り返していたため、寮居住者に一階入口からの帰寮をためらわせる状態を作り出し、もつて右安全配慮義務に違反したことが本件事故の一因となったものと認められる。
 したがって、被告は、本件事故につき、安全配慮義務違反に基づく責任を負う。
 (二) この点、被告は、亡Bが雨樋を伝って本件建物三階から入ろうとすることはおよそ予見できなかった旨主張するが、安全配慮義務違反の予見可能性としては、寮居住者が二階以上の窓から本件建物に侵入し、その結果、怪我を負うこともありうることを予見できれば十分であるというべきであるところ、寮居住者の年齢等に照らせば、その程度の予見であれば可能であったといえるうえ、殊に本件においては、前記幸地志真の件があり、より予見は容易であったといえるから、被告の右主張は採用できない。
 また、《証拠略》によれば、一階入口の窓際に就寝している訴外Aらは、寮居住者が施錠後に帰寮した場合でも、寮居住者が窓ガラスを叩くなどして帰寮したことを知らせれば開扉していたこと、本件事故当日、日頃亡Bに対して叱責を行っていた訴外Aは旅行のため外出中であり、一階入口付近にはCが就寝していたこと、本件事故当日、訴外Dが一階入口の窓ガラスを叩いて開扉してもらおうとしたが、亡Bはこれを制止し、いつも雨樋を登って三階から寮に入っている旨訴外Dに伝えて三階から寮に入ろうとしたこと、亡Bらが帰寮した午前一時三〇分ころには、本件建物の二階の他の従業員の部屋の電気がついており、亡Bらが階下から右従業員に声をかければ一階入口を開扉してもらうことも可能であったことなどの事情も認められるが、前記のとおり、本件事故は、訴外Aの亡Bに対する度重なる叱責が、亡Bに一階入口からの帰寮をためらわせる状態を作り出していたことに一因があると認められること、従業員の身である亡Bが、深夜という時間帯に、被告の代表取締役であるCら家族を起こして一階入口を開扉してもらうことは必ずしも容易な帰寮方法であったとはいえないこと、本件建物の二階にいた他の従業員に一階入口を開扉してもらうとした場合、右従業員を呼ぶ声や右従業員に一階入口を開扉してもらった際の騒々しさで、一階入口付近で就寝しているCら家族を起こしてしまう可能性もあったことなどを考慮すれば、右事情をもって被告の安全配慮義務違反に基づく責任を否定することはできないというべきである。
 その他、被告には責任がないとする被告の主張に即して検討しても、これを認めることはできない。