全 情 報

ID番号 07015
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 岩倉自動車教習所事件
争点
事案概要  自動車運転の技能指導員として契約期間を一年とする契約書を交わしていること、正社員との処遇の違い等を考慮すると、長期間反覆継続されたからといって、そのことの故に期間の定めのない契約に転化したとは認められないが、本件労働契約は、実質的に期間の定めのないものと同視すべきものになっており、雇止めには特段の事情を要するところ、教習生減少に伴う作業量調整に原告らが応じなかったため、本件労働契約を更新しなかったことはやむを得ないものとして、雇止めにより契約が終了したとされた事例。
参照法条 労働基準法2条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1997年7月16日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 3517 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例731号60頁/労経速報1648号3頁
審級関係
評釈論文 藤原稔弘・民商法雑誌119巻1号140~146頁1998年10月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 2 以上認定の事実、特に、原告らが毎年三月二一日付で契約期間を一年間とする契約書を交わしてきていること、正社員とパート職員とでは、勤務時間、休日、宿日直の義務、作業量調整の有無、賞与、退職金といった点で地位・処遇に差異があること、被告も正社員とパート職員とではその地位・処遇は異なる旨職員らに常々説明し、職員もこれを了知していたことに照らすと、本件労働契約は、いずれも一年間の期間の定めのある契約というべきであり、それが長期間反復継続されたからといって、そのことの故に期間の定めのない契約に転化したと認めることはできない。
 しかしながら、本件労働契約が一年間の期間の定めのあるものであるとしても、期間の満了により当然に労働契約が終了すると解するのは相当でなく、期間の定めのある労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、雇止めは、実質的には解雇と同一と見るべきであるから、解雇に関する法理が類推され、期間満了によって本件労働契約を終了させるためには、余剰人員の発生等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存することを要すると解するのが相当である。本件においては、原告らはいずれも昭和四四年に被告に入社し、原告X1は昭和五九年三月二一日から一日一〇時間、原告X2は昭和六〇年三月二一日から一日七時間、昭和六一年三月二一日から一日八時間それぞれ勤務するようになり、被告からの給料で生計を立て、定年まで勤務するつもりであったこと、毎年の契約更新は、期間満了前に被告から更新の意思の有無について口頭で確認されるものの、契約書の作成は、四月ないしはそれ以降にずれ込むことが多かったこと、パート指導員の中には一〇年以上勤務している者が少なくないこと、正社員の指導員とパート指導員の教習業務の内容は同一で、就業規則も同じように適用されることなどに照らすと、本件労働契約は、実質的に期間の定めのない契約と同視すべきものになっていると解するのが相当であり、原告らのような長期間のパート指導員を期間満了により雇止めをするには、契約更新に対する期待との関係で余剰人員の発生等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存することを要するというべきである。
 もっとも、本件においては、前記のとおり、被告は、正社員の仕事を安定的に確保しつつ、流動的な部分をパート指導員で消化して経営の安定を図ることを経営方針とし、パート職員を含む全職員に対して、パート職員は将来の保証はなく不安定な地位である旨幾度となく説明し、職員はこれを了知していたのであり、他方、原告らは、自らの判断で正社員になることは希望せずパート指導員に留まったというのであるから、本件雇止めの効力を判断すべき基準は、原告らが昭和四四年以降勤務を継続してきたとしても、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約をしている正社員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があるというべきである。〔中略〕
 (二) しかし、このような被告の方針に対して、原告らは、「従来どおりの契約でお願いしたい」「但書をとってほしい」などとして応諾しようとせず、さらに、「今までの会社のやり方からは、一度サインすれば何かの時にその文章が生きてきて、私たちの生活がもしかの時にどうなるか不安である」「例年どおりの契約で仕事の落ち込みの激しい時には、その時点で話し合っていけばよい」「口頭で約束するというならわざわざ条項を入れなくてもよい」「今度の契約ではこれからの生活に不安がある。常勤より年間所得が低いのに更に条件が悪くなるのでは契約をすることはできない」などとして、被告にしてみれば今後は作業量調整に応じることに抵抗するかのような発言を繰り返し、本来の契約期間満了日から二五日経った平成六年四月一六日に至っても、その態度を変えようとしなかったものであるから、被告が、原告らは被告の申し出た条件による契約更新に応ずる意思がないと判断し、原告らからの作業量調整に関する条項のない契約書による本件労働契約の更新申入れに応じることはできないとしたのもやむを得なかったというべきである。