全 情 報

ID番号 07021
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 ハウス販売工業事件
争点
事案概要  被告会社に在職中に、他社の設立準備に従事したこと、反抗的であること等を理由とする懲戒解雇、また上司に対し反抗的・功撃的であること、経理担当者としての管理義務に反したこと等を理由とする懲戒解雇につき、それらは懲戒解雇事由に該当せず、解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。
 退職金額の計算につき、自己都合による退職として、被告の退職金規定により計算すべきとされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法24条1項
労働基準法89条1項3の2号
労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務能力
裁判年月日 1997年9月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 4476 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1667号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務能力〕
 原告X1は、被告に在職中に、A会社の事務所を訪れていたのであるが、その際専らA会社の開業準備行為を行い、被告の業務を遂行しなかったとは断定できない。また、原告X1は、被告名義でA会社が使用する事務機器や備品等を発注し、しかも、その納入先をB会社とする虚偽の注文をしているうえ、物品受領書の受領印欄に偽名で受取りの記載をしているのであり、そのこと自体からは、何らかの不正の目的があったとの疑いをもたれても仕方がないともいえる。しかしながら、前記認定の事実によれば、右原告X1の行為は、Cの指示に基づいて行われたものであり、Cは、当時被告の代表取締役社長の地位にあり、原告X1の上司であったこと、右商品の代金は、原告X1がCの指示に従って支払われており、被告に実害が生じていないことなどの事情に鑑みれば、右各事実があったとの一事をもって、原告X1に懲戒解雇事由があったとすることはできない。〔中略〕
 確かに、前記認定のとおり、原告X1は、同月以降、しばしばA会社に出入りしていたことが認められるが、原告X1は、A会社の事務所においても、被告の業務を行っていたことがあるのであって、被告の業務遂行を放棄したというにはあたらない。また、原告X1が被告に在籍中反抗的で社内の雰囲気を暗くしたことが認められる的確な証拠はない。〔中略〕
 (1) 被告は、原告X2が平成三年二月ころからCと愛人関係を結び、社内の風紀を著しく乱したばかりでなく、男性社員に対して汚い言葉を遣い、上司に対する言動も反抗的、攻撃的であり、社内の雰囲気を暗くしたことが被告の就業規則一一条、二三条三号(素行不良で会社内の風紀秩序を乱した時)、同条一四号所定の懲戒解雇事由に該当すると主張するが、右の事実が認められる的確な証拠はないから、被告の右主張は失当といわなければならない。〔中略〕
 原告X2が担当していた経理事務は、営業担当者の台帳のまとめなど、形式的、機械的事務処理が中心であったというべきであり、仮にCが被告に対する詐欺的行為に及んでいたとしても、被告の経理事務を担当していたことから直ちに、原告X2がそのことを知っていたとか、これを知りながら隠蔽工作を行ったとすることはできず、他に右の事実を認めるに足る的確な証拠はないから、原告X2に被告の主張にかかる懲戒解雇事由があったとはいえない。〔中略〕
 事務引継ぎをしなかったのではあるが、それは、前記認定のとおり、当時の上司で被告の代表者であったCの指示に基づいたものであったこと、Dにもその旨を告げてあったことなどの事情に照らせば、懲戒解雇を正当化するほど悪質であったとはいえない。〔中略〕
 確かに、前記認定のとおり、原告X2が金庫のダイヤルを回さずに帰宅し、Dからそのことを注意されたとの事実は認められるのであるが、前記認定のとおり、Dが原告X2の求めにもかかわらず、速やかに金庫のダイヤル操作をせず、原告X2の経理事務に支障を生じたことがあったり、原告X2が金庫のダイヤル操作を怠ったことが被告に何らかの損害をもたらした形跡もないことに鑑みれば、右の事実があったことから直ちに本件解雇が正当化されるとすることはできない。
 3 以上判示のとおり、原告らに対する本件解雇は、いずれも懲戒解雇事由を欠くもので、解雇権の濫用であるから、Dに原告らを解雇する権限があったか否かの点について判断するまでもなく、無効というべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 2 原告らの退職金額
 (一) 原告らが退職金の支給を受ける場合、その計算が本件退職金規定によることは、被告も争わないところであり、本件退職金規定四条によれば、「退職金は退職時基本給月額(別表)に支給率を乗じた額とする」と規定されているが、この別表はない。〔中略〕
 (二) ところで、原告らは、被告が分割されるにあたって、従前の会社の法人格を引き継ぐ被告を離れて、新たに設立された別会社のA会社に入社したのであるが、本件和解においては、原告らのような立場の従業員の退職金の支給については、何らの取決めもなかったのであるから、結局、原告らの退職金額の算定は、本件退職金規定によることとなる。そして、原告らは、会社の分割という特殊な事情があり、また、Dとの関係が悪化したとはいえ、自らの意思に基づき、Cを慕って被告を退社し、別法人のA会社に入社したのであるから、被告から支給される退職金については、自己都合によるものとして算定すべきである。(なお、原告らは、Cが会社都合による退職金の支給を約した旨を述べるが、これを裏付ける的確な証拠はない)。