全 情 報

ID番号 07026
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 タオヒューマンシステムズ事件
争点
事案概要  ゲームプログラム作成契約が労働契約か請負契約かにつき、作業は社内で行い、会社の器材を使用していたこと、タイムカード等への記載を指示されて記載していたこと等により、本件契約は請負契約ではなく労働契約とされた事例。
 未払賃金額の遅延損害金につき、賃金の支払の確保等に関する法律六条一項に基づき年一四・六パーセントの割合により支払が命ぜられた事例。
 解雇予告手当の支払が命ぜられた事例。
 附加金の支払につき、本件はゲームソフトのプログラム作成に従事している者の問題で、このような労務供給形態は比較的最近になって問題となってきたものであること等を考慮すると、被告が本件契約に労働基準法の適用がないと考えて時間外割増賃金及び解雇予告手当の支払をしなかったことをもって、制裁としての附加金の支払を命じることは相当ではないとされた事例。
参照法条 民法632条
労働基準法2章
労働基準法20条
労働基準法114条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1997年9月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 23663 
平成8年 (ワ) 209 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1658号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 二1 原告と被告との間の契約について、原告は労働契約であると主張し、被告は労働基準法の適用のない単なる請負契約であると主張するので判断する。
 2 前記一で認定した事実によれば、契約段階での合意はもちろん現実の作業においても原告の本件作業は被告の社内で、被告が調達した器材を使用して行っていたこと、原告は被告から出社時間及び退社時間がわかるようにタイムカード等への記載を指示されて現実に記載していたこと、原告への金員交付時の明細書には給与と記載されて源泉徴収も行われていたこと、殊に最初の金員交付時には被告担当者が研修期間と称して日給計算を行っていること、本件作業については被告の北村から進行管理を受けており、本件作業の状況等については業務報告書を被告担当者に六月七日以降は毎日提出していること、そして右報告書中の被告の担当者のコメント欄には原告が被告の内部の者であることを前提とした記載が見られるほか、少なくとも七月ころには被告の従業員(アルバイトの者を含む)と密接に連携をとったうえで作業を遂行していたことを窺わせる記載のあること、原告は本件作業以外にもグラフィック担当者らに器材の操作説明等も行っていたこと、原告はもともと被告の契約社員等の募集広告に応募した者であること、被告は原告に対して両者の署名捺印はないものの雇用に関する契約と題する書面を交付していること、原告は六月ころには被告の幡垣に対して時間外手当についての要求をしているが被告は十分な説明もせずに放置していること(請負契約であり残業をしても時間外手当が出ないとの認識であれば、被告としてはこの段階で明確な合意をしておくべきものである)等の事実が認められ、また被告から原告に対して契約時に、本件作業のみの契約であり七月末日までに完成しなかった場合には途中で支払った金員を全て返還してもらうこと等を明確に説明していたと認めるに足りる証拠がなく、これらの点に原告の供述(証拠略)をあわせて考慮すると、原告と被告との間の契約は、賃金を毎月二五万円(交通費は別途支給)とする期間の定めのない労働契約であるというべきである。
〔解雇-解雇と争訟〕
 4 したがって、未払賃金額(未払交通費及び未払時間外手当を含む)の合計は四六万八四九五円であり、遅延損害金については、賃金の支払確保等に関する法律六条一項、同法施行令一条により、右に対する一四・六パーセントの割合の範囲で理由がある。
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 五 原告は、解雇予告手当として二三万八〇四〇円を請求しているので判断する(解雇を受忍したうえでの請求であると認められる)。前記二で認定のとおり、原告と被告との間の契約は労働契約であり、被告は原告を八月一七日に即時解雇したものであるところ、原告は本件ゲームのプログラム作成に関して習熟した能力を有していたわけではなく、八月一七日までに提出したプログラムも中間段階のものとしても不十分なものであったが(前記二8、証拠略)、これらの事実は解雇事由にはなり得るとしても、労働基準法二〇条所定の解雇予告手当を支払わない即時解雇を基礎付ける理由とはならないから、原告には解雇予告手当を支払う義務があるというべきであり(なお、原告の請求は、右解雇直前の賃金締切日である平成七年七月末日以前の三か月(九二日)の賃金総額七五万円を九二日で除して平均賃金を算定し、それに三〇日を乗じたものの範囲内である)、原告の請求には理由がある。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 本件は原告と被告との間の契約に労働基準法の適用があるか否かが問題となったもので、労務供給の客観的な事実関係が右判断の重要な要素となっているものであり、殊に、本件はゲームソフトのプログラム作成へ従事している者の問題で、このような労務供給形態は比較的最近になって問題となってきたものであること等を考慮すると、被告が本件契約に労働基準法の適用がないと考えて右金員の支払いをしなかったことをもって、制裁としての付加金の支払いを命ずることは相当ではないと認められるから、原告のこの点に関する請求は理由がない。