全 情 報

ID番号 07030
事件名 業務命令効力停止仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 京都薬品メーカー配転事件
争点
事案概要  京都市内の薬品メーカーで事務職員として採用され枚方工場で勤務していた女性職員が経営の効率化の観点から枚方工場が閉鎖されるのに伴い、福島県の白川工場への配転を命じられ、配転命令効力停止の仮処分を申し立てたケースで、右配転命令が権利濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1997年10月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 2212 
裁判結果 認容
出典 タイムズ962号152頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 6 債権者は京都市内の実母所有の自宅で実母とともに暮らしているが、債権者の実母は大正八年十二月七日生まれであり、骨粗鬆症、両変形性膝関節症に罹患している上、平成八年には大腸ガンの手術を受けており、一人暮らしや病院、施設等を利用することは困難であり、また、債権者の兄弟が面倒を見ることはできず、さらに、債権者とともに未知の土地で暮らすことも困難である。
 7 債務者は、債権者の家庭の事情をある程度把握していた。
 二 ところで、配置転換命令については、就業規則に使用者の業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、労働契約成立の際に勤務地を限定する旨の合意がない場合には、使用者は、個別的同意なしに従業員の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するが、当該転勤命令につき業務上の必要性が存在しない場合または業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるときもしくは従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情が存する場合には、当該転勤命令は権利の濫用にあたるものというべきである。
 本件においては、債務者の就業規則に使用者の業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあることについては疎明があり、労働契約締結の際、債権者の勤務地を自宅から通勤可能な範囲とする旨合意したことについては疎明が不十分である。そして、前記の事実によれば、債務者の枚方工場が閉鎖されるのであるから、債権者の配置転換については業務上の必要性があるものというべきであり、本件転勤命令が特定の労働組合に所属する者を排除するなど他の不当な動機、目的をもってなされたものであることについては疎明が不十分である。
 しかしながら、本件転勤命令は、前記認定の債権者の家庭の事情に照らすと、債権者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべきである。したがって、本件転勤命令は権利の濫用にあたるものというべきである。