全 情 報

ID番号 07038
事件名 退職金請求控訴事件
いわゆる事件名 大興設備開発事件
争点
事案概要  採用時に六〇歳を超えていた高齢労働者が、自分にも就業規則の退職金規定が適用されるとして、退職時に退職金規定に基づく退職金を請求していたケースの控訴審の事例(原審判決を取り消し、請求一部認容)。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の適用対象者
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1997年10月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 3625 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例729号61頁/労経速報1665号3頁
審級関係
評釈論文 中村涼子・ジュリスト1158号130~132頁1999年6月15日
判決理由 〔就業規則-就業規則の適用対象者〕
 1 まず、本件就業規則が高齢者に適用されるかどうかについて検討する。
 (一) 先にみたとおり、昭和五八年から平成七年までの間、平成六年一二月に制定された本件就業規則及びそれ以前の旧就業規則は、いずれも適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていたのであり、本件就業規則の中には高齢者及びパートタイムの従業員にも本件就業規則が適用されることを前提とした第六条五項、第二〇条一項の規定がある。したがって、本件就業規則は高齢者にも適用されると解するのが相当である。
 被控訴人は、本件就業規則を高齢者やパートタイムの従業員を除く正社員に適用することを念頭に置いていたので、制定に当たり、正社員には説明会を開き、代表者の意見を聞き、できあがった規則を正社員に見せたが高齢者には示していないと主張する。しかし、就業規則には法的規範性が認められており、本来的に労働条件の画一的、統一的処理という点にその本質があり、それ故に合理性をもつものといえるから、その解釈適用に当たり就業規則の文言を超えて使用者である被控訴人の意思を過大に重視することは相当ではない。したがって、被控訴人主張のような事情があるとしても、先にみたとおり、平成八年一月に至るまでは高齢者やパートタイムの従業員に適用される就業規則が別に定められていたものでもなく、本件就業規則の規定の内容が従業員全般に及ぶものとなっていて、高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者である控訴人にも適用されると解するのが相当である。〔中略〕
 本件就業規則には高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがなく、勤続三年未満の者には退職金を支給しないとの定め以外の適用排除規定が見当たらず、退職金は基本給と勤続年数を基礎にして算出される定めとなっており、控訴人についても右定めによって退職金を計算することが可能であることが認められる。そして、控訴人は、他の会社で働き六〇歳に達し、年金を受給できるようになってから被控訴人に採用された者であり、六〇歳時に被控訴人から退職金を支給された者ではない。このような事実関係のほかに、就業規則によって支給条件を定められた退職金には賃金という性質があることを否定できないこと、退職後の支給であるため年金を受給しつつ労働を続けるために賃金や諸手当を低額に抑えるという要請を受けないことを併せ考えると、高齢者である控訴人について、本件就業規則の退職金の定めを適用できないと解すべき根拠はないというべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 控訴人は、最終的に平成七年九月一〇日に退職したが、平成七年三月一一日から同年九月一〇日までの雇用に関し退職金を支給されない旨の雇用契約書(〈証拠略〉)を被控訴人に提出しているから、退職金を計算する上で雇用期間の終期は平成七年三月一〇日と解するのが相当である。
 そうすると、退職金を計算する上で、控訴人の勤続年数は昭和六三年二月二日から平成七年三月一〇日までの七・〇八年となる。
 2 先にみたとおり、控訴人は、国立A大学工学部等の都合から週休二日ではなく土曜日も出勤したというのであるが、高齢者として月間一八日勤務制となっていて、標準勤務日数が月間一八日であるから、退職金を計算する上では、基本給は月間一八日を基礎とすることになる。
 控訴人は、標準勤務日数を年間二五四日であるとして計算するが、右日数は正社員に関するものであるから採用することができない(〈証拠略〉)。
 3 そうすると、控訴人の退職金は五四万七九九二円となる(8,600円×18日×7.08÷2=547,992円)。
 4 先にみたとおり、控訴人は、最終的に平成七年九月一〇日に退職したから、本件就業規則第四七条により、退職金はその翌日から一か月以内に支給されるべきであり、被控訴人は平成七年一〇月一一日から支給を遅滞していると認めることができる。