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ID番号 07048
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 トーコロ事件
争点
事案概要  三六協定の締結当事者につき、会社の親睦団体の代表者が自動的に労働者代表となって締結したものというほかないとして、適法、有効なものとはいえないとされた事例。
 残業拒否を理由とする解雇につき、三六協定が無効であり、したがって残業命令も無効であるとして、右解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法36条
民法1条3項
体系項目 労働時間(民事) / 三六協定 / 締結当事者
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1997年11月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ネ) 4745 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集48巻5-6号633頁/労働判例729号44頁/労経速報1660号11頁
審級関係 一審/06404/東京地/平 6.10.25/平成4年(ワ)22617号
評釈論文 吉田美喜夫・労働法律旬報1444号36~43頁1998年11月25日/小西康之・ジュリスト1145号118~120頁1998年11月15日
判決理由 〔労働時間-三六協定-締結当事者〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 Aが「労働者の過半数を代表する者」であったか否かについて検討するに、「労働者の過半数を代表する者」は当該事業場の労働者により適法に選出されなければならないが、適法な選出といえるためには、当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して三六協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要というべきである(昭和六三年一月一日基発第一号参照)。
 この点について、控訴人は、Aは「B会」の代表者であって、「B会」が労働組合の実質を備えていたことを根拠として、Aが「労働者の過半数を代表する者」であった旨主張するけれども、「B会」は、原判決判示のとおり、役員を含めた控訴人の全従業員によって構成され(規約一条)、「会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる」(規約二条)ことを目的とする親睦団体であるから、労働組合でないことは明らかであり、このことは、仮に「B会」が親睦団体としての活動のほかに、自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を目的とする活動をすることがあることによって変わるものではなく、したがって、Aが「B会」の代表者として自動的に本件三六協定を締結したにすぎないときには、Aは労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないから、本件三六協定は無効というべきである。
 次に、控訴人は、Aが本件三六協定を締結するに当たっては、社内報や集会を利用するなどして全従業員の意思が反映されるような手続を経て、多数の意見に基づいて締結されたものであって、Aは「労働者の過半数を代表する者」である旨主張する。しかしながら、本件三六協定の締結に際して、労働者にその事実を知らせ、締結の適否を判断させる趣旨のための社内報が配付されたり集会が開催されたりした形跡はなく、Aが「労働者の過半数を代表する者」として民主的に選出されたことを認めるに足りる証拠はない。
 もっとも、当審証人Aは、本件三六協定を締結するに当たり、まず控訴人から提示された協定案を「B会」の役員五人で検討したうえ、五人で手分けして全従業員に諮ることとし、右協定案を添付して回覧に付し、全従業員の過半数の承認を得た旨供述し、当審に至って提出された同人の陳述書(乙六八)にも同旨の記述がみられるけれども、この点は当初から争点の一つとされていたにもかかわらず、原審で取り調べた証拠中には、わずかに同人の陳述書(乙三七)中に「B会」内部で検討したという程度の抽象的な記述があるにとどまり、それ以外に右と同旨のものは全くないのであって、当審証人Aの右供述はいささか唐突の感を免れ難いのみならず、右協定案の回覧結果についての客観的証拠が提出されていないことなどに照らすと、当審証人Aの右供述等をにわかに採用することはできない。
 以上によると、本件三六協定が有効であるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、それを前提とする本件残業命令も有効であるとは認められず、被控訴人にこれに従う義務があったとはいえない。