全 情 報

ID番号 07058
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 株式会社日宣事件
争点
事案概要  会社の退職金制度の見直し中に退職した労働者が、会社が改訂されて従前よりも労働者にとって不利になった退職金規定に基づいて退職金を支給したのに対して、従前の退職金規定について形成されていた算定基礎額に関する慣行に基づく退職金請求権があるとして、その差額分を請求した事例(請求一部認容)。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
民法92条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則と慣行
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1997年12月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 6348 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例730号33頁/労経速報1666号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則と慣行〕
 被告が昭和六二年から平成七年三月ころまでの間、基本給を算定基礎額として算定した退職金を退職者に支給してきたのであり、右の事実によれば、被告においては、昭和六二年以降、基本給を算定基礎額として退職金を算定、支給するとの取扱いが事実上存したということができる。しかしながら、労使慣行が有効に成立するためには、労使間において、ある取扱いが相当長期間にわたって事実上行われていることのほか、労使双方、とりわけ使用者側において当該事項につき決定権限を有する者が当該取扱いの規範性を認め、これにより拘束されることを承認していたことが必要と解すべきである。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 そして、前記認定のとおり、被告においては、昭和六二年以降基本給を算定基礎額として退職金を支給する旨の取扱いが事実上存したということができるのであるが、平成七年にAが退職した際、退職金額が問題となり、被告代表者の指摘を受けたBがそれまでの退職金算定が昭和六二年に改定された退職金規定所定の算定方法に反していることに気付き、是正したのであり、このような事情に鑑みれば、結局それまでの取扱いは、Bの過誤によるものであったといわざるを得ず、被告が早期に右過誤に気付いていたならば、早急にこれを改め、本来の規定内容に従って退職金を支給していたであろうことが容易に推測できる。
 右の事情によれば、前記基本給を算定基礎額として退職金を支給するとの取扱いについては、被告代表者など退職金の決定権限を有する者がこの取扱いに拘束されることを承認していたと認めることは到底できず、結局、原告主張の慣行の存在は、これを認めることはできない。
 2(一) 以上のとおり、被告が原告に支払うべき退職金は、昭和六二年の改定の内容に従い、本給(職能給)を基礎とし、これに所定の支給率を乗じた金額である。