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ID番号 07060
事件名 仮処分申立却下決定に対する即時抗告申立事件
いわゆる事件名 丸島アクアシステム事件
争点
事案概要  ダムなどの水利関係施設の製造を業とする会社で嘱託社員として六か月の期間雇用を一〇回にわたり反復更新する形で雇用されてきた労働者が、雇止めを受け、労働契約上の地位保全と賃金の仮払いの仮処分を申し立て却下され、即時抗告を申し立てていた事例(棄却)。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1997年12月16日
裁判所名 大阪高
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ラ) 971 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例729号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 (1) 期間の定めのある雇用契約の期間満了による雇止めの効力の判断に当たっては、当該労働者の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇用契約の期間等についての使用者側の説明、契約更新時の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等を考える必要がある。これらに鑑み、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたか、あるいは、労働者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきである(最判昭四九・七・二二民集二八巻五号九二七頁、最判昭六一・一二・四裁判集一四九号二〇九頁、最判平三・六・一八労働判例五九〇号一〇頁(ママ)参照)。
 (2) これを本件についてみると、確かに、一件記録によれば、抗告人は、合計一〇回の契約更新により五年間にわたり継続して相手方に雇用され、その従事した業務内容も正社員と同様のものであったということができる。この期間、回数のみからみれば、なるほど抗告人において、相手方が継続雇用を行うことを期待すべき事情があったといえなくもない。
 (3) しかし、一件記録によると、相手方は、従前定年退職者を対象として行ってきた嘱託社員制度の対象者に、比較的高年齢者で特に技能を有する者を例外的に加えてきた経緯が認められる。すなわち、相手方では、比較的高年齢者の就職希望者に関し、その技能に着目して、期間、賃金等の雇用条件をその都度明示して、就職希望者がこれに合意する場合に限り、雇用契約の締結ないしその更新契約を締結してきたものである(なお、抗告人は、その賃金等の労働条件が正社員と同様に扱われていた旨主張する。しかし、抗告人の賃金等は、雇用契約ないし更新契締結の都度、相手方との間で合意されたものであり、その際に正社員の労働条件が参考されたことがあるとしても、そのことをもって、抗告人の労働条件が正社員と同様に扱われていたとはいえない)。
 その上、相手方の担当者が、抗告人を採用するに際し、抗告人に対し、長期継続雇用をするとか、正社員として採用することを期待させるような言動をしたことを認めるに足りる疏明がない。
 また、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、相手方においては、嘱託社員の雇用契約更新の可否を、その都度実質的に審査し、これを可とする判断をした場合にのみ、その更新を行っており、抗告人についても、本件雇止めに至るまで、右のような実質的な審査の結果を踏まえて雇用契約の更新が行われてきたことが、認められる。
 (4) さらに、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、抗告人は、平成八年九月二一日には、既に相手方の担当者から、同年一〇月一四日から平成九年四月一三日までを雇用期間とする次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものである。
 その上右説示のとおり、抗告人の勤務態度には、問題がなかったとはいえない。それのみならず、一件記録によると、相手方の担当者は、抗告人に対し、加工ミス等につき厳重な注意をしていたが、抗告人の勤務状況の改善がなされなかったことが認められる。
 (5) なお、抗告人は、嘱託社員で六〇歳未満で雇止めをされた者はほとんどいない旨主張する。
 しかし、そもそも嘱託社員は、相手方において、定年退職者の中から勤務成績、技能等の優秀な者を再雇用するために発足した制度である。
 そして、相手方は、その後、同制度の適用範囲を、定年退職者以外の者で、相手方がその技術をとくに必要とする場合にも拡大した。このため、相手方は、定年退職者以外の嘱託社員の採用をとくに右のような技能者を必要とする場合に限定している。相手方は、その後の更新に際しても、その都度その必要性を吟味して、更新契約をしてきた。そうであるから、仮に嘱託社員で六〇歳未満で雇止めされた者がほとんどいなかったとしても、そのことが、直ちに、本件雇用契約が、期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態であったとか、あるいは、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったことに結びつくものではない。
 (6) そもそも、民法は、期間の定めのある雇用契約を適法と認めている。そして、これを修正する特別法はない(労働基準法一四条は、期間の上限を定めるにすぎない)。そうであるから、当事者が、期間の定めのある労働契約の締結ないし更新をする明確な意図のもとで、その合意をしている場合には、その意思に即した効果が認められる。
 (7) 前示(3)ないし(6)の認定判断によれば、前示(2)の事情があることを斟酌しても、本件に関し、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたとか、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合に当たるものと認めることができない。