全 情 報

ID番号 07061
事件名 地位確認等請求控訴及び附帯控訴事件
いわゆる事件名 倉田学園事件
争点
事案概要  私立学校の教諭に対する早朝生徒指導命令に従わなかったこと等を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇事由には該当しないとして無効とされた事例。; 私立学校の教諭に対する非常勤講師への降職処分につき、労働契約の同一性を前提とする降職等を規定する就業規則所定の懲戒事由を本件の処分事由とすることはできないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1997年12月19日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 195 
平成8年 (ネ) 284 
裁判結果 控訴棄却、附帯控訴一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働民例集48巻5-6号660頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 懲戒事由の規定の仕方とその内容、職員の身分及び職務の区分とその内容、始末書の機能が「懲戒を行う場合でも、将来の労働関係のスムースな展開を考慮して、可能な限り本人の納得のうえでこれを行おうとしている」ことにあることを考慮すると、控訴人の高松校の職員に対する懲戒は、労働契約を終了させない(労働契約の同一性を前提とする)譴責、減給、出勤停止、降職の各処分が、労働契約の終了を前提とする懲戒解職(これに降職処分が含まれるかは後述する。)の処分がそれぞれ予定されていると解される。労働契約の同一性を前提とする降職処分とは、例えば、教諭として採用された者が教頭に就任している場合に、教頭の地位を剥奪するような場合である。
 ところで、被控訴人らに対する降職処分は、教諭から非常勤講師に降職する内容であるが、右認定事実によれば、満六〇歳までの終身雇用の教諭としての地位を雇用期間一年間で月給でなく時間給の非常勤講師の地位に降ろすものであって、労働契約の基本的内容を変更するものであるから、社会通念上労働契約の同一性を有すると解することはできない。
 したがって、本件降職処分は、懲戒解職と新たな講師としての労働契約の申込みの実質を有するものであり、労働契約の同一性を前提とする降職処分ではないから、就業規則六八条所定の懲戒事由を処分事由として降職処分を行うことは許されないと解される。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 3 懲戒解職事由の有無
 以上によれば、被控訴人Y1・Y2に対する早朝指導命令は有効であり、同じ事由で出勤停止処分後も同命令の不履行があり、結果的に一年間にわたって断続的に同命令に従わなかった右被控訴人らの行為は、就業規則六八条五号(正当な理由のない遅刻)、九号(業務上の命令違反)及び一〇号(勤務の怠慢による業務阻害)に該当する非違行為であって、職場規律を維持する上で軽視し難いものがあるといわなければならない。
 しかしながら、本件早朝生徒指導命令は、勤務時間の変更を伴う命令であって、組合員の労働条件にかかわる事柄であり、個人の問題であるので団体交渉になじまないとして団体交渉を拒絶することは許されないにもかかわらず、控訴人は、本件早朝生徒指導命令の対象者の人選や輪番制よりも適当とする理由につき何らの説明をせず、組合の団体交渉の申入れにも応じなかったこと、控訴人の意思には反するものの、事実上生徒指導部の策定した生徒指導が行われており、被控訴人Y1・Y2の命令不履行の影響は重大なものとは評価できないこと、本件早朝生徒指導命令が労使関係が険悪化しているところで、事前の打診もなく突然組合幹部が指名されるなど、控訴人の姿勢に被控訴人Y1・Y2が疑いを持ち、反発することも無理からぬ点があること等の事情に照らすと、右被控訴人らの右非違行為は、就業規則六九条所定の懲戒解職事由には該当しないと解するのが相当である。
 よって、被控訴人Y1・Y2に対する降職処分はいずれも無効である。