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ID番号 07062
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 三洋電機(住道工場)事件
争点
事案概要  当初契約期間を二か月として、その後契約期間を一年とする定勤社員として雇用されていた者が、準社員就業規則の「別に定める一定年齢に到達する場合は契約更新を行わない」旨の規定(労使確認により五七歳、正社員の場合は六〇歳とされていた)により、満五七歳到達を理由に契約の更新を拒絶されたため、従業員としての地位確認を求めて争った事例(請求棄却)。
参照法条 労働基準法2章
民法627条
労働基準法89条1項3号
高年齢者の雇用の安定等に関する法律4条
労働基準法3条
体系項目 退職 / 定年・再雇用
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 社会的身分と均等待遇
裁判年月日 1997年12月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 3817 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例738号43頁/労経速報1657号3頁
審級関係
評釈論文 山崎文夫・労働判例740号7~13頁1998年9月1日/水町勇一郎・ジュリスト1166号114~116頁1999年11月1日
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 準社員の組合員化に伴い、A労働組合大東地区支部連絡協議会の議長である訴外Bと被告AV事業本部、AV管理部の部長である訴外Cとの間で、昭和六三年一二月一日、右「一定年齢」を満五七歳とする旨の労使確認(本件労使確認)がなされ、その旨の文書が作成されたことも併せ考慮すれば、満五七歳をもって同規則にいう「一定年齢」とする取扱いは、長年にわたり定勤社員及び準社員の間において「定年」などと俗称されて当然の慣行として行き渡っていたものであり、本件が問題化するまでは特に誰もそのことについて異論を差し挟むことはなく、労使間の規範意識に支えられていたということができ、したがって、右制限年齢に関する取扱いは一種の法的規範性を有する労働慣行として労働契約の一内容となっていたものということができる。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 原告らは定勤社員契約及び準社員契約を一〇年以上にわたり反復更新してきたことが認められるのであるから、右事実のみでは、右雇用契約が期間の定めのない契約に転化したということもできず、また、これが期間の定めのない契約と実質的に同視しうる状態になっていたということもできない。
 しかしながら、他方、前記認定事実によれば、原告らは、個々の更新期間満了後も雇用関係が継続することに対し一定の期待を有していたことを認めることができるのであって、もし、原告らが右雇用契約関係の継続に対して有する期待が客観的合理的なものであると認められる限り、更新期間満了の際の雇止めにも解雇法理の類推適用を肯定すべきであり、右解雇法理が類推適用される場合には更新期間満了後も当然に契約関係が終了することなく、被告の解雇の意思表示を必要と解するのが相当である。〔中略〕
 原告らは、「定年」と俗称されていた満五七歳までの期間については、更新期間満了後も引き続き雇用されることに対して客観的合理的期待を有していたと認めることができるが、他方、右期待を有していたのはあくまでも、「定年」と称された満五七歳までにすぎず、それ以上の年齢に至るまで継続して雇用されることにつき客観的合理的期待を有していたとは到底認められないということができる。
〔退職-定年・再雇用〕
 被告が、一方において、正社員につき六〇歳を定年としてその年齢までの継続雇用を保障しつつ、他方で原告ら準社員につき更新制限条項を設けて満五七歳という年限で雇用契約関係を打ち切る制度を採用し、その結果として、正社員と準社員との間で契約の終期につき、事実上三歳の差異が生じたとしても、後者の五七歳という年限は、新たな雇用契約の締結に対する年齢的制限を定めたもので、本来の定年とは性質を異にするものであるから、これをもって、若年定年制と同視することはできないし、また、この点を措いても、結果として、正社員と準社員との間の三歳の差異は、前記のとおり、本来契約の内容(類型)において異なる立場の者につき、例えば、それぞれが被告に対しいかなる貢献をしてきたか、また、被告においてそれぞれにつきどの程度の期待を有していたかなどについて一定の評価を加えた結果として生じたにすぎず、それは、基本的には、被告の経営的判断に委ねられるべきことというべきであるので、これをもって、公序良俗違反と断ずることはできない。〔中略〕
〔退職-定年・再雇用〕
 原告らの職務内容は正社員と同一であるとは到底いえず、また、その貢献度についても、正社員と同等とは言い難いことが明らかであるところ、以上のとおり両者間には諸々の差異があり、これらがもともとの契約内容ないし契約類型、ひいては、被告の従業員に対する量的質的な期待ないし企業と労働者との繋がりの緊密性の点の差異に基づくものと理解される以上、被告が原告らと正社員とを同一に取扱うことなく、正社員と準社員の契約終期に三年の年齢差を設けたとしても、これをもって、社会通念上許されざる不合理な差別と断ずるに足りず、また、右が準社員という地位ないし身分に由来する不合理な差別ということもできない。したがって、本件退職措置が憲法一四条一項に違反し、公序良俗に反するとの原告の主張は理由がない。
〔労基法の基本原則-均等待遇-社会的身分と均等待遇〕
 なお、原告らは、準社員と正社員の契約終期に三歳の年齢差を設けることは、憲法一四条及び労基法三条の「社会的身分」による差別である旨主張するが、前記のとおり、本件退職措置は、原告らの準社員たる地位に由来する不合理な差別ということができないので、原告らの右主張は、準社員たる地位が「社会的身分」に当たるか否かを問うまでもなく失当である。〔中略〕
〔退職-定年・再雇用〕
 原告らの準社員たる地位は、正社員のそれに比して契約内容ないし契約類型において異なることが明らかであって、右高年齢者雇用安定法四条が主として定年までの継続雇用を保障された正社員を念頭に置いたうえ、その雇用確保を可及的に実現しようとした趣旨にかんがみると、原告ら準社員が満五七歳という年限による更新制限条項によって規律されるとしても、それが定年とは性質を異にする以上、原告ら準社員が同法の適用対象になるものと解することはできない。