全 情 報

ID番号 07063
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 共同輸送事件
争点
事案概要  貨物運送を業とする会社で自動車運転手として勤務している労働者が、時間外・深夜労働をしたにもかかわらず、就業規則所定の方法で算定された割増賃金しか支払われていないとして、その差額分の賃金等の請求をした事例(請求一部認容)。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1997年12月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 13352 
平成8年 (ワ) 1487 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例730号14頁/労経速報1667号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 被告賃金規則所定の調整手当とは、車両を他社に持ち込んで、右会社に専属して運送部門を担当している乗務員の稼働時間が右会社の作業時間に拘束されたり、被告から右会社への移動時間が残業時間として算定されない等の不都合があったことから、同乗務員らを対象として支給することとした手当であること、その手当の対象となる乗務員は被告大阪営業所に三名存在すること、その一方、原告らが調整手当と称するものは、被告では調整給あるいは保障手当と称せられ、時間外労働が少なく、賃金月額が前月より少なくなる従業員を対象とし、その低くなった度合いに応じて、被告取締役営業本部長であるAが五〇〇〇円、一万円、一万五〇〇〇円の中から額を選択して支給する手当であることが認められる。
 さらに、成立に争いのない(証拠・人証略)の証言、原告Xの本人尋問の結果によれば、原告らに対する調整手当が毎月支給されていたものではなく、支給されない月もあったうえ、その支給額も一定ではなかったこと、右手当が常に調整手当と称されていたわけでもなかったことが認められる。
 (4) これらの各事実を併せ考えれば、原告ら主張の調整手当とは、被告賃金規則所定の調整手当とは異なるものであることが認められるから、原告ら主張の調整手当を、被告賃金規則所定の時間割賃金の算定の基礎に算入することはできないというべきである。〔中略〕
 時間外、休日及び深夜の割増賃金に関する労働基準法三七条の趣旨は、同法の採用する強行的な法定労働時間制、週休制からすると例外的である過重労働につき、使用者に割増賃金支払義務を課すことによって、間接的にその労働が抑制されることを期待し、もって法定労働時間制、週休制の実効性を確保するとともに、例外的な過重労働により労働者のもたらされた肉体的、精神的負担、自由時間の喪失に対する特別な補償を図ることにある。したがって、同条所定の最低額の賃金が、本件のように、各種手当の名目で支給されていても、それが実質的に同条所定の割増賃金の趣旨で支払われている限りは、同条の目的は達成されたというべきであり、それ以上に同条所定の計算方法や支払方法に拘束されなければならない理由はない。
 しかし、同条の右目的に鑑みれば、右手当の支給により同条所定の割増賃金が支払われたというためには、割増賃金の趣旨で支給された右手当のうち、どの部分が同条所定の割増賃金に相当するかが明確に峻別できなくてはならないというべきである。なぜなら、割増賃金の趣旨で支給された右手当が、同条所定の計算方法で算定された割増賃金額を下回った場合には、労働者は、使用者に対し、右差額を未払割増賃金として同条に基づいて請求できるはずであるところ、仮に右差額が明確に算定されなくとも同条に違反しないと解すると、同条の未払割増賃金支払請求権の範囲を特定することができず、結局これを行使できない結果に終わるという意味で、同条の趣旨を潜脱することになるからである。
 3 以上によれば、右手当の支給によって同条所定の割増賃金が支給されたというためには、まず右手当が実質的に割増賃金としての性格を有すること、右手当のうち割増賃金相当部分とそれ以外の部分とが明確に峻別できること、右手当のうちの割増賃金相当部分が同条所定の計算方法によって算定された割増賃金額を下回っていないことの各要件を満たすことが必要であるというべきである。〔中略〕
 以上認定の各事実を総合すると、いずれの手当も、必ずしも時間外勤務や深夜勤務を前提とするものではないし、また、その支給金額が必ずしも時間外勤務時間数あるいは深夜勤務時間数とは比例する関係にはなっていないと認められるので、その全部が割増賃金の性格を有するものと認めることはできない。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 労働基準法一一四条に基づく付加金の請求は、同法三七条等の違反のあった時から二年以内にこれをしなければならないが、この二年間は除斥期間であると解されるので、中断が生じることはない。