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ID番号 07101
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 JR東海(大阪第三車両所)事件
争点
事案概要  JR東海(会社)の新型車両導入に伴う教育訓練を目的とした時間外労働命令を拒否したことを理由に戒告又は訓告の懲戒処分を受けた労働者が、右懲戒処分の違法を主張してその効力を争った事例(棄却)。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法35条
労働基準法36条
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
労働時間(民事) / 三六協定 / 協定の効力
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1998年3月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 2420 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例742号61頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕
 このような訓練の計画や実施は、乗客の安全や運行条件を確保するため、当然に必要なものということができ、被告が三〇〇系車両の検修に備え、大阪第三車両所において、訓練計画を定立すること自体は、何ら問題とされるものではない。さらに、被告が右訓練計画を策定するに当たっては、現に行っている業務への支障の有無や訓練受講者の数、代替要員の確保、円滑な訓練の実施のための方策等諸般の事情を総合考慮した上で、どのような日程で訓練を行うか、いかなる時間帯に訓練を実施するか、どのような内容の訓練をどのような順序、方法で実施するかなどの事柄については、経営判断に基づく裁量権があるというべきであり、再訓練計画の当否を判断するに当たっても、被告が明らかに不合理な計画を策定したり、従業員に対して必要以上の過重な負担を強いるなど、被告が右裁量の範囲を逸脱して計画を策定したと評されるような事情がない限り、被告の判断は尊重されるべきである。
 そして、前記認定の事情に鑑みれば、被告が決定した再訓練の内容、日程、実施時間帯等については、台車検査の開始時期が迫っていたこと、対象者全員に受講させる必要があったこと、本来の業務への影響を最小限度に抑えなければならなかったことなど、いずれもそれなりの理由や必要性に基づくものであったということができる。確かに、時間外労働として実施される再訓練に参加すれば、退社時間が遅くなるなど、従業員の負担が増加することが容易に推測されるものの、右に述べた再訓練の必要性や再訓練が比較的短期間に設定されていたこと、予備日が設定されるなど割り当てられた訓練日に支障がある場合に柔軟な取扱が可能であったこと、後記マイクロバスの増発等の便宜的措置、この訓練が当初計画された訓練を受講しなかった従業員を対象にした再訓練という性格のものであったことなどの事情に照らせば、再訓練計画は、相応の合理性があったというべきである。〔中略〕
〔労働時間-三六協定-協定の効力〕
〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕
 前記認定の事実によれば、被告の就業規則六七条一項は、「会社は、労基法第三三条に該当する場合又は同法第三六条に基づく協定を締結した場合は、労基法第三二条(ただし、政令に定めがある場合はその時間)、同法第三二条の二及び同法第四〇条又は同法第三五条の規定にかかわらず、社員に労働時間外又は公休日に勤務を命ずることがある。」と規定し、同条三項は、「社員は、前各項により労働時間外又は休日等の勤務を命ぜられたときは、正当な理由がなければ、これを拒むことはできない。」と規定している。さらに、被告とJR東海労との間で締結している基本協約においても、四九条一項、三項に右就業規則と同内容の規定が置かれ、大阪第三車両所においては、被告は、平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの一年間及び同年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの一年間について、事業場の従業員の過半数を組織する労働組合が存在しなかったため、東海労組、鉄産労及び国労の三労働組合との間で「労働基準法第三六条の規定に基づく時間外及び休日の労働に関する協定」を締結し、このことにより、従業員の過半数が所属する労働組合との間で協定が成立したことになった。そして、右協定は、所轄の茨木労働基準監督署に届出がなされているが、原告らに対する時間外労働命令が、右協定二条三号の「打合せ会、説明会及び講習会等を時間外に行う必要があるとき」に該当することは明らかである。
 したがって、右諸規定によれば、被告の従業員は、再訓練の実施に関する時間外労働命令につき、「正当な理由」のない限り、これを拒むことはできないことになる。
 4 そこで、原告らの時間外労働命令拒否につき、右「正当な理由」があったか否かを検討する。
 (一) 右「正当な理由」は、被告の就業規則六七条三項が特に事前の申告を要求していないことや病気など急に生じた身体的状況やその他の事由を考えれば、必ずしも常に事前の申告を要するとはいえないまでも、「正当な理由」の存否が専ら従業員側の事情に関わるものであり、多くの場合被告がこれを知ることが困難であること、被告の側でも代替要員の確保等事前に対処する方法を講じる必要があることなどの事情に照らせば、労働契約関係における信義則上、従業員に予め分かっていることであれば、事前に上司に申告し、その了解を得ることが要求されると解すべきである。
 そして、事前の申告が困難な場合には、事後的、客観的な見地からみて、相当と認められる事由があれば、「正当な理由」に該当し、そのことを理由とする時間外労働命令許否が正当化されるものと解するのが相当である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 原告らは、いずれも被告のなした業務命令を故なく拒否したことになる。そして、このことは、被告の就業規則六七条三項に違反し、一四〇条一号(法令、会社の諸規程等に違反した場合)及び二号(上長の業務命令に服従しなかった場合)各所定の懲戒事由に該当するといわなければならない。