全 情 報

ID番号 07103
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人中村産業学園(九州産業大学)事件
争点
事案概要  大学教授でありバスケット部監督としての指導をも行っていた者が、不動産を個人的に購入して部の寮として使用し、高額の寮費や部費を徴収しており、部費の運用につき公私混同があったとして懲戒解雇されたのに対して、地位確認等の請求を求めた事例(認容)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 部下の監督責任
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1998年3月25日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 1949 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例741号63頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-部下の監督責任〕
 原告は、本件懲戒事由書に記載された事実は、そのほとんどがバスケットボール部監督としての行為であって、A大学の教授としての行為ではないことを指摘し、原告が右監督を辞任したことでその責任は果たされている旨を主張する。
 しかしながら、原告は昭和四一年以来A大学バスケットボール部監督として活動するとともに、右監督としての指導は、同大学教授の立場での研究活動にも色濃く反映されているほか(〈証拠略〉)、部を強化することを目的として、部への留学生受入れの窓口となるなど、教授の地位を生かして監督としての指導を行っていたと認められることから、原告の監督としての行為は、教授としての行為と評価されるべき面があることは否定できない。
 したがって、監督を辞任したことのみをもって、右就業規則上の懲戒解雇事由該当性の有無についての検討を経るまでもなく、原告に対する責任追求の余地がなくなるものではないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 以上のとおり、前記1で認定した原告の各行為のうち、大学からの援助金としての備品代及び部員からの年額部費を含むバスケットボール部活動費たる部費の管理並びにバスケットボール部の基金たるB基金の管理が公私を混同した杜撰なものであったことは、懲戒解雇事由である本件就業規則五一条六号及び一〇号に該当すると認められる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 原告は賞罰会議に関する規程が存在しないことをもって、本件懲戒解雇手続が違法である旨主張するが、懲戒処分が理事会の議を経て理事長によって行われるものであることは就業規則上明らかであり、賞罰会議は理事会に対する諮問機関として位置付けられるものである。右のような性質を有する賞罰会議は案件に応じて適宜構成、運営される必要があり、実際に開催された賞罰会議の構成員の選定及び運営が恣意的に行われた結果、被懲戒者にとって不利益なものとなった等特別の事情がない限り、右規程の不存在のみによって懲戒権行使自体が違法となるものではないと解すべきである。
 本件においては、右のとおり、賞罰委員会の構成員の選定並びに右委員会及びこれに至る調査等を含む一連の経過のいずれにも合理性があり、これらが恣意的に行われたとは認められないから、本件懲戒解雇が手続的瑕疵により違法となるものではない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 懲戒は組織内部の秩序罰であり、客観的見地から社会通念上合理的と考えられる限り、懲戒権行使が裁量の範囲を逸脱して違法となるものではないと解するのが相当である。
 しかしながら、懲戒権行使としての解雇は、組織体から被懲戒者を排除する効果を生じ、多くの場合被懲戒者の生活手段をはく奪する結果となる重大なものであるから、このような懲戒権行使は特に慎重に行われることが要求されるところ、右懲戒権行使が社会通念上合理的と認められるためには、懲戒解雇事由に該当する被懲戒者の行為の原因、性質、態様、結果及びこれが当該組織の秩序に与える影響のほか、被懲戒者の処分歴等諸般の事情を勘案しても、被懲戒者を組織から排除することが真にやむを得ないと考えられることが必要である。〔中略〕
 原告の右各金員の管理が杜撰であったことの原因は、原告がバスケットボール部に関する支出を、その原資となる収入の性質に応じて個別に整理していなかったことにあり、特に悪質であるとは思われない。原告がバスケットボール部の監督として全寮制を採用し、同部の寮であるC荘の購入費、改修費を負担したこと、韓国からの留学生等選手として能力の高い学生を部に受け入れるため、修学費等の援助を個人的に約束したことなど、その遠因となる事情はいずれもバスケットボール部の強化を目的としたものである(原告本人)。
 また、B基金が原告によって恣意的に運用された原因は、同基金が原告個人への寄付であるとの同人の誤った認識にあると認められるが、同基金の当初の性質は必ずしも明確ではなく(〈人証略〉)、原告が右のような認識を有するに至った事情についても全く理解できないというわけではない上、その使途の多くは留学生等一部の部員学生に対する援助であり、運用の結果として原告自身が利得した事実は認められないばかりか、原告は右のほかに、個人的に部員学生に対する援助を行っており、その総額は一〇〇〇万円を超えている(〈証拠略〉)。
 右の各事情に加えて、原告がバスケットボール部の監督を辞任することで一定の責任をとっていること、及び、原告に対しては、過去に明確な形で懲戒権が行使されていないことを勘案すれば、原告に対する懲戒権行使として懲戒解雇を選択することは酷に過ぎ、本件懲戒解雇は社会通念上合理性を欠く違法なものというべきである。