全 情 報

ID番号 07111
事件名 保険金引渡等請求事件
いわゆる事件名 飯室商店事件
争点
事案概要  株式会社の従業員を被保険者、右会社を保険契約者・保険金受取人として、死亡保険金一五〇〇万円の生命保険契約が締結され、被保険者の死亡により右保険金が右会社に支払われた場合において、遺族が右保険金の引渡しを求めた事例(請求一部認容)。
参照法条 商法674条1項
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 1998年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 10466 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例738号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 本件保険契約締結に際し、被告会社は、訴外人が死亡等した際、訴外人に支払うべき見舞金及び退職金の支払のために保険契約を締結すると訴外人に説明したこと、訴外人は、訴外人が死亡したときに遺族のためになると喜んで保険契約締結を承諾したことが窺われる。そして、右のとおりの被告会社と訴外人間の話し合いを前提に、2項のとおり、被告会社及び訴外人は甲二二の10の用紙に記名押印または署名押印したものと推認される。〔中略〕
 昭和六〇年五月一日当時、訴外人が被告会社に対し退職金を請求する権利はなかったこと、2項のとおり、被告会社と訴外人は、甲二二の10の記載を認識のうえ、記名押印または署名押印して訴外A会社に甲二二の10の用紙を交付したことが推認されること、甲二二の10の用紙に記入する際、被告会社と訴外人間に3(二)項のとおりの話し合いがなされたことが窺われることからすれば、本件保険契約締結に際し、被告会社と訴外人間で、訴外人が死亡したとき、被告会社が、訴外A会社から受け取る保険金の全部または相当部分を退職金または弔慰金として訴外人の相続人に支払う旨の合意が成立したものと認めるべきである。〔中略〕
 被告会社は、訴外A会社に対し、本件保険契約に基づく保険料として一九〇万六〇〇五円を支払ったことが認められる。右支払済保険料額は、被告会社が原告らへ支払うべき保険金相当額から差し引くのが相当である。
 なお、原告らは、本件保険契約のうち定期保険特約の保険料は、掛け捨てであるから、もともと、被告会社へ戻らないものであるし、甲二二の10の用紙において、「2、この生命保険に基づき支払われる保険金の全部またはその相当部分は、退職金または弔慰金に充当するものとする。」と記載されており「保険金の全部」との記載があるのは、支払済保険料額を控除しないことが前提になっており、また利益配当付養老生命保険の保険料については、被告会社は利益配当金として一五万〇九六五円を訴外A会社から受け取っているから、被告会社が原告らへ支払うべき保険金相当額から支払済保険料を差し引くことは相当でないと主張する。
 しかしながら、被告会社が原告らへ支払うべき保険料相当額から支払済保険料額を差し引かないとすれば、訴外人が死亡したときは、訴外人及び訴外人の相続人は何らの出捐をしていないのに一五〇〇万円という多額の保険金相当額を利得することになるが、4項記載の被告会社と訴外人間の合意に、このように被告会社の一方的不利益な合意を含んでいることは通常あり得ないと考えられるし、4項記載の被告会社と訴外人間の合意に、右のような被告会社に一方的に不利益な合意を含んでいたことを認める証拠もない。原告らは、定期保険特約の保険料は、もともと掛け捨てであることを、支払済保険料を差し引くことが相当でない根拠とするが、定期保険特約の保険期間内に従業員が死亡し、以後就労ができなくなった場合と定期保険特約の保険期間内に従業員が死亡せず従業員が就労を継続している場合での被告会社の利益は全く異なるのであって、この点を被告会社が何ら考慮せずに、定期保険特約を締結したとは考えられないのであるから、原告らが、定期保険特約の保険料がもともと掛け捨てであることを根拠とすることは失当である。また、甲二二の10の用紙は定型用紙であり、事業主と被保険者たる従業員間の具体的事情によっては保険金の全額を退職金または弔慰金に充当することを相当とする場合もありうることから「保険金の全部」と記載されていると推測されるのであって、「保険金の全部」との記載から、支払済保険料を控除しないことが前提とされているとは言えない。