全 情 報

ID番号 07115
事件名 賃金等請求上告事件
いわゆる事件名 片山組事件
争点
事案概要  建築工事現場で長年にわたり現場監督業務に従事してきた労働者が、バセドー氏病のため現場作業に従事できないと申し出たところ、会社から自宅治療命令を受け、約四か月間欠勤扱いとして賃金が支給されず、冬期一時金も減額されたためその措置を不当として賃金等を請求した事例の上告審(原審は、原告の請求を認めた第一審判決を取り消していたが、上告審は、原判決破棄、差戻し)。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
裁判年月日 1998年4月9日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (オ) 1230 
裁判結果 破棄差戻(差戻)
出典 時報1639号130頁/タイムズ972号122頁/労働判例736号15頁/労経速報1671号3頁/裁判所時報1217号1頁
審級関係 差戻控訴審/07329/東京高/平11. 4.27/平成10年(ネ)1425号
評釈論文 三井正信・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕38~39頁/山田哲・日本労働法学会誌93号165~172頁1999年5月/小嶌典明・労働判例738号6~12頁1998年7月15日/水島郁子・平成10年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1157〕212~214頁1999年6月/仙波啓孝・平成10年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1005〕322~324頁1999年9月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 1 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲に同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。
 2 前記事実関係によれば、上告人は、被上告人に雇用されて以来二一年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、上告人提出の病状説明書の記載に誇張がみられるとしても、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。そうすると、右事実から直ちに上告人が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、上告人の能力、経験、地位、被上告人の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。そして、上告人は被上告人において現場監督業務に従事していた労働者が病気、けがなどにより当該業務に従事することができなくなったときに他の部署に配置転換された例があると主張しているが、その点についての認定判断はされていない。そうすると、これらの点について審理判断をしないまま、上告人の労務の提供が債務の本旨に従ったものではないとした原審の前記判断は、上告人と被上告人の労働契約の解釈を誤った違法があるものといわなければならない。