全 情 報

ID番号 07133
事件名 休業補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 永山病院・岸和田労基署長事件
争点
事案概要  看護婦婦長が婦長室において高血圧性脳内出血により倒れ障害が残ったケースにつき、業務に過重性があったとはいえないとして業務外とした原処分が維持された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働基準法施行規則別表1の2
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1998年5月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ウ) 77 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例746号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 (三) 以上の事実によれば、原告の発症した本件疾病(高血圧性脳出血)は、高血圧の状態が継続することにより、脳内の細動脈の平滑筋層(血管中膜)に変性を生じて血管壊死の状態となり、血管壁が構造的に脆弱となった場合に極めて発生しやすい疾病であるところ、原告は、昭和五四年三月以降、常時高血圧の状態にあり、昭和五五年二月には高血圧症、心拡大と診断され、薬も処方されたが、服用は断続的で、依然として高血圧の状態が改善されなかったことが認められるのであるから、原告の血管壁は、本件疾病発症時(昭和五九年五月二二日)、長期間にわたる高血圧症により、既に脆弱化した状態にあり、そのため、生理的な血管変動によっても脳出血等の疾病が発生しうる状態、すなわち、いつ本件疾病が発症しても不自然ではない状態にあったというべきである。
 したがって、本件疾病は、原告の長期間にわたる高血圧症という基礎疾患を主たる原因として発症したものであるというべきである。
 4 発見の遅れ
 (一) 原告は、本件疾病を発症後、約一四時間も発見されず、そのために本件疾病が悪化したところ、右発見の遅れは日常生活において通常ありうる程度の発見の遅れとはいえないものであるから、右発見の遅れによって悪化した部分については業務に起因したものであると主張する。
 (二) 前記のとおり、労災保険給付の要件としての業務起因性があるというためには、業務と傷病に相当因果関係があることが必要であり、業務と傷病との間に相当因果関係があるというためには、当該業務に傷病を招来する危険性が内在ないし随伴し、当該業務が係る危険性の発現と認めるに足りる内容を有することが必要である。すなわち、本件疾病を発症させた原告の発見が遅れ、そのために悪化した疾病の部分が業務に起因したというためには、原告が業務に従事した場所自体に、発見の遅れの危険性が内在すること、すなわち、A病院婦長室が、外部との連絡が遮断・隔離された特別な環境下にあり、そのため、婦長室において業務に従事することが、被災労働者の治療機会の喪失をもたらす客観的危険性を有していたことが必要である。
 これを本件においてみるに、そもそも婦長が個室の婦長室を与えられ、ここで業務に従事すること自体は一般的なことであり、前記認定の事実によれば、婦長室は、A病院の二階南西に、病室と事務長室にはさまれた位置に病室を改造して設置されたこと、婦長室と廊下を仕切る扉にはすりガラスがはめ込まれ、扉の上部に、換気用として、回転ガラス窓が設置された構造になっていたこと、現に婦長に相談を持ちかける看護婦や患者、その他職員、セールスマンが婦長室を訪れることがあったことが認められるのであるから、婦長室が外部から隔離・遮断された特別な環境にあったとはいえない。
 したがって、原告が婦長室を与えられてここにおいて業務に従事したことが、被災労働者の治療機会の喪失をもたらす客観的危険性を内在していたとは認められない。
 5 結論
 以上の事実によれば、原告の本件業務は過重負荷であったとはいえないし、原告は、本件疾病発症当時、長期間にわたって高血圧症に罹患していたので、既に血管壁が脆弱化した状態にあり、そのため、いつ本件疾病を発症しても不自然ではない状態にあったというべきであるから、本件業務が本件疾病発症の原因であったということはできないし、原告が与えられた婦長室が外部から隔絶・遮断された特別な環境にあったとはいえないので、原告が本件疾病発症後、約一四時間発見が遅れ、そのために本件疾病が悪化したとしても、これをもって本件疾病に業務起因性があるとはいえない。