全 情 報

ID番号 07166
事件名 地位保全等仮処分命令異議申立事件
いわゆる事件名 ナショナル・ウエストミンスター銀行事件
争点
事案概要  就業規則における「行員は、次の各号のいずれかにあてはまる場合には、解雇されることがある」との規定につき、列挙された解雇事由に該当しないいわゆる普通解雇も許されるとされた事例。
 整理解雇につき、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力及び解雇手続の相当性は解雇権の濫用に当たるかを判断するための要素を類型化した判断基準として意義を有するが、これらの一つ一つが当然に有効な人員の削減のための解雇の必要条件になるというものでなく、あくまでも解雇権の濫用に当たるかどうかを判断するための類型的な判断要素にすぎないから、その一つ一つを分断せずに全体的、総合的にとらえるべきとされた事例。
 人員削減の方法として、他の部署への配属、自然減をまつなどの他の方法がありえたのにただちに解雇することは、解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間には均衡が失われているというべきであるから、人員整理の必要性を欠き、解雇権濫用として無効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1998年8月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (モ) 2044 
裁判結果 認容
出典 労経速報1690号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-就業規則所定の解雇事由の意義〕
 ところで、本件就業規則二九条の前段は「解雇は、次の場合に限り行う」という規定の仕方ではなく、「行員は、次の各号のいずれかにあてはまる場合には、解雇されることがある」という規定の仕方であって、その規定の仕方を見る限り、いわゆる普通解雇事由に基づいて解雇権を行使しうるのは本件就業規則二九条の前段に掲げる解雇事由に限られているとはいいがたいこと、現に本件就業規則三〇条の第三段及び本件給与規則一〇条には長期疾病の場合に行員が解雇されることがあることが定められているが、この解雇事由は本件就業規則二九条の前段に掲げる解雇事由には挙げられていないこと、以上によれば、債務者はいわゆる普通解雇事由に基づいて解雇権を行使しうるのは本件就業規則二九条の前段に掲げた解雇事由に限られるという趣旨で本件就業規則二九条の前段を設けたわけではないと解するのが相当である。
 (三) そうすると、本件就業規則二九条の前段に掲げた解雇事由に該当しないいわゆる普通解雇も許されるというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力及び解雇手続の相当性は解雇権の濫用に当たるかどうかを判断するための要素を類型化した判断基準として意義を有するが、これらの一つ一つが当然に有効な人員の削減のための解雇の必要条件になるというものではなく、あくまでも解雇権の濫用に当たるかどうかを判断するための類型的な判断要素にすぎないから、そのひとつ一つを分断せずに全体的、総合的にとらえるべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 (5) 以上によれば、本件解雇については経営上の必要性があり、かつ、経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有すると認められるものの、本件解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間には均衡が失われているというべきであるから、結局のところ、本件解雇については人員整理の必要性を肯定することができないといわざるを得ない(なお、前記第三の一3(四)(4)イ(ウ)〔ハ〕で説示したように、債権者が管理職に昇進した場合には、管理職に昇進した理由となった債権者の専門的知識や経験などが債務者の東京支店の経営に必要ないと判断されたときには債務者を解雇されることがあり得ることを債権者自身が認識していたとすれば、本件解雇についての人員整理の必要性について右の判断とは異なる判断に至ることもあり得たものと考えられ、債権者が右に述べたような理由で債務者を解雇されることがあり得ることを債権者自身に十分認識させる措置を債務者が講ずることは十分に可能であったというべきであるから、結局のところ、当裁判所が右のような判断をしたからといって、債務者において経営方針の変更によるある部門の閉鎖による担当業務の消滅を理由とする解雇をすることが全くできなくなることを意味するものではないことは明らかであり、また、債務者にはアシスタント・マネージャーの自然減を待ってしばらくの間債権者を余剰人員として債務者に留め置くという方法は主観的には採り得なかった(前記第三の一3(四)(4)ウ)としても、それは債務者に不能を強いることを意味するものでもないことも明らかである)。
 (五) 小括
 以上によれば、仮に債権者が閉鎖されることになったA会社アジアパシフィック部門に配属されていたという理由だけで解雇の対象者を債権者としたことに合理性があると認められ、また、債権者を解雇するのに先立って債権者の解雇を回避する目的で殊更に他の部署のアシスタント・マネージャーについて希望退職を募らなかったことに合理性があり、かつ、債務者が疎明するように債務者は債権者に証券会社への就職をあっせんしたと認められ、また、債務者が本件解雇に至るまでの間に債権者やこれを支援する本件組合との間で債権者の解雇について十分な話し合いを行ったと評価できるとしても、本件解雇については人員整理の必要性を肯定することができないのであるから、結局のところ、本件解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。