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ID番号 07179
事件名 療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 札幌通運・札幌中央労働基準監督署長事件
争点
事案概要  運送会社の車両班長兼運行管理者が、レールの移動作業中に脳出血で死亡したケースにつき、脳出血を作業との間に因果関係が認められるとして、業務外と判断した原審が取り消された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法36条
労働者災害補償保険法37条
労働基準法施行規則別表1の2
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1998年9月18日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (行コ) 3 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例753号60頁
審級関係 一審/06175/札幌地/平 5. 3.22/昭和57年(行ウ)6号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 五 Aの死亡の業務起因性の有無について
 以上の認定事実及び判断をもとに、Aの脳出血による死亡と業務、特に死亡直前に従事していた本件レール移動作業との相当因果関係の存否、Aの死亡の業務起因性について判断する。
 前記認定のとおり、Aが死亡直前に従事していた本件レール移動作業は、貨車に積載してある長大な重量物(長さ一〇メートル以上、重量数百キログラム)であるレール一二本を、共同作業者であるBと二人がかりで金てこを用いてレールを回転させるなどしながら、貨車の床上、貨車側板(距離一・〇六メートル)及びホーム上(距離二・一五メートル)を横移動し、集積場所である枕木台の上にしゃくり上げて、その上を押し送りながら一列に並べるというものであって、ショベルやフォークリフトの機械力を使用したり、油を塗って滑りやすくした滑走下地の上を比較的安全かつ容易に押し滑らせながら移動する通常の作業方法と比べると、体力を要するだけでなく、極度の精神的緊張を強いられる危険性の高い特殊な作業方法であったことは、Aは、本件事故当時、訴外会社で主として引越作業や運行管理者としての仕事に携わっていたものであり、本件のような金てこを用いてレールを回転させたり、しゃくり上げるなどしながら移動する作業に従事した経験はほとんどなかったうえ、本件作業はBと二人がかりで行う同期的共同作業であったところ、共同作業者であるBと比べて作業熟練度のみならず体格や筋力の面でも劣っていたことなどから、本件作業は、Aにとって肉体的、精神的、さらには心理的な負荷が強度に加わるものであったと認められること、Aは、本件作業開始後一時間四〇分を経過した作業終了間際の本件レール移動作業中に突然倒れ、その後二〇分ないし二五分後に脳出血により急死したものであり、発症から死亡までの時間的間隔が極めて短いこと、他にAに脳出血を発症させる有力な原因があったという事実は確定されていないことなどを総合して考えると、Aの脳出血は、Aが本件事故当日従事していた本件レール移動作業によって受けた負荷が相対的に有力な原因となって基礎となる病態(血管病変等)をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させた結果であると認めるのが相当であり、Aの死亡原因となった脳出血と本件レール移動作業との間に相当因果関係の存在を肯定することができ、したがって、Aの死亡は労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるものというべきである。