全 情 報

ID番号 07182
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 東京電力事件
争点
事案概要  慢性腎不全による身体障害等級一級の嘱託社員が、生体腎移植手術後、会社から出社を強制されたこと等による損害賠償請求につき、そのような事実はなかったとして棄却された事例。
 慢性腎不全の者が生体腎移植手術後、業務に耐えられないとしてなされた解雇につき、相当な解雇理由が存し、解雇権濫用にも当たらないとされた事例。
参照法条 民法1条3項
民法709条
民法710条
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 解雇事由 / 病気
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1998年9月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 1354 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例752号31頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 1 出社強制の事実について
 原告は、本件移植手術後、主治医から、当初半年間は絶対安静、少なくとも三か月間は無理はできないと言われていたのに、出社を強制されたと主張する。しかし、主治医の診断書(〈証拠略〉)には、「以後約三か月の厳重な外来管理が必要である」とだけ記載されており、自宅療養ないし就労不能とは記載されておらず、就労不能と認めた期間としても、平成五年三月一日から同月二八日までと記載されており、原告の主治医が半年間絶対安静又は三か月間は就労不能と診断した事実は認められない。
 そして、原告の主張する、上司のA副長が、原告に対し、欠勤が多いと嘱託の継続も難しくなる等と告げて出社を強要したとの事実については、これに沿う原告本人の尋問結果及び陳述書も存在するが、他方、A副長の証人尋問の結果によれば、同人は、原告の入院中の病院と退院後の自宅との二回原告を見舞ったが、原告の自宅では玄関で原告の妻とのみ面談した事実が認められること(〈人証略〉)、被告は、原告が身体障害者等級一級の認定を受けていることを了解して雇用契約を締結しており、原告の入社直後の平成四年九月二八日、被告の産業医の意見に従い、被告の健康管理規程に定める時間外就業禁止及び重作業の禁止等の就業制限措置を講じていること(〈証拠略〉)、また、原告が通院に便利な場所の社宅に入居したいと希望した(〈証拠略〉)のに対しては、優先的に社宅へ入居させて、原告の健康状態を考慮して特別の取扱いを行っていること等の事実が認められること等に照らし、被告が原告に出社を強要したとする前記原告本人尋問の結果は採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-病気〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 5 被告は、原告に対し、平成八年一〇月二〇日までは、賃金を支給したが、被告は、平成八年一〇月二〇日に、今後勤務しない分については賃金を支給しない通常の扱いとすることとした。
 しかし、原告は、その後もほとんど出社しなかったため、被告は、同年一二月一九日付けで、このままの欠勤状況が続くと平成九年四月一日以降の嘱託雇用契約の継続は困難となる旨の書簡を郵送した(〈証拠略〉)。
 しかし、その後も、原告は、体調が悪く、勤務に復帰しなかったため、被告は原告が、就業規則取扱規程第二編四条一項五号の心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当するとして、本件解雇の意思表示をした(〈証拠略〉)。
 以上認定の事実からすれば、原告は、被告の就業規則取扱規程に定める心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当すると認められ、本件解雇には、相当な解雇理由が存在し、かつその手段も不相当なものでなく、解雇権の濫用には当たらないといえる。
 なお、原告の主張が、被告が原告を酷使するなどの不法行為により、病状が悪化し、勤務できない状態となったのに、被告が本件解雇をしたのは不当解雇に当たるとするものだとしても、前記認定のとおり、原告主張の各不法行為に該当する事実は証拠上認定できないから、原告の不当解雇の主張は理由がない。