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ID番号 07186
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 秋田経済法科大学事件
争点
事案概要  助教授に昇任させなかったことを理由とする損害賠償請求につき、権利侵害はないとして棄却された事例。
参照法条 民法709条
民法710条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
裁判年月日 1998年9月30日
裁判所名 仙台高秋田支
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 144 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例752号21頁
審級関係 一審/秋田地/平 8.11.11/平成4年(ワ)345号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 本件選考規程に基づく選考は、被選考者について、本件選考基準三条の条件を充足するかどうかという判断と併せて、同基準一条にいう控訴人の「人格、健康、教授能力、教育実績、研究業績及び学会並びに社会における活動等」が、経法大の教育研究に携わる職制の重要な部分である助教授としての職務遂行能力に適合し、その基準を満たすかどうかについて判定するものというべきものである。それは、当然に、教育研究能力という全人格的な評価につながることを意味し、講師として求められる資格と助教授として求められる資格とに前記のような違いがあることから推しても、講師として一定年数在職し、業績があったとしても、当然に助教授に期待される教育研究能力を充足するものとは言い難いといわざるを得ないのであり、このような全人格的な評価が必要的に介在する以上、控訴人が主張するような助教授への昇任期待権を観念する余地はないといわねばならない。
 このように、全人格的な評価とはひとまず別な在職年数や研究業績などの客観的な側面が一定の条件を満たしたとしても、当然あるいは機械的に講師から助教授へ昇任しうるという職制ではない以上、控訴人と同時に、あるいは控訴人に遅れて講師として採用された者が助教授に昇任した事実があったとしても、そのことで直ちに控訴人を差別的に扱ったといえるものではないことも当然である。
 したがって、控訴人を助教授に昇任させなかったことが、控訴人の権利を違法に侵害したとはいい難いから、その余の点につき判断するまでもなく控訴人の被控訴人学校法人に対する請求は理由がない。
 2 被控訴人Yに対する請求について
 被控訴人Yが、法学部教授会において、恣意的あるいは不公正な運営をしたことを認めるに足る証拠は存在しない。
 また、控訴人は、控訴人が教育研究者として成長するために昇任申請が否決された理由を知る必要があり、被控訴人Yには、法学部教授会における控訴人の助教授昇任が否決された理由や外部審査の結果を開示する条理上の義務があると主張するが、選考とは競争試験以外の能力の実証に基づく試験であり、被選考者の対象となる職務の遂行能力の有無を選考の基準に適合しているかどうかに基づいて判定するものであることからして、被選考者において選考の理由を開示すべきことを求める権利はないものというべきであって、控訴人の主張はそれ自体失当である。