全 情 報

ID番号 07227
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 大井交通事件
争点
事案概要  タクシー乗務員であり、労働組合の委員長や書記長の任にあった原告らに対する乗務拒否と賃金不支給につき、診断書の未提出を理由とする場合は乗務拒否は正当であるが、始末書の提出拒否、不穏当な発言、大声での言動、タクシー乗務から内勤への変更を理由とする乗務拒否は正当とはいえず、原告らに賃金請求権があるとされた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 1998年10月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 24244 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1696号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 前記認定によれば、原告X1の行為が就業規則八条四号に該当するものということはできず、同号が被告の執った前記措置の法的根拠となるということはできない。なお、前記のとおり、原告X1がAの求めに応じず、始末書を提出せず、不適切な発言をしてしまったことは認められるものの、これをもって、原告X1が業務上の指示、命令に従わないとき(就業規則一〇二条四号)、又は業務上の指示、命令に不当に反抗して事業場の秩序を乱したとき(就業規則一〇三条三二号)に当たるものと断ずることはできないし、被告が懲戒処分として前記措置を執ったものではなかったことも、既に述べたとおりである。
 3 そうすると、被告が平成七年八月三〇日から同年一〇月一九日までの間原告X1の乗務を拒否し続けたことは、法的根拠を欠くものであるから、原告X1は被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。〔中略〕
 前記認定によれば、Aの言動の不当労働行為該当性を別にすれば、原告X2が、既に就業時間が始まっており、Aから仕事に就くよう注意を受けたにもかかわらず、約一五分間その場にとどまり、さらには、Aに対し、右のような不穏当な発言をしたことは相当ではないといわざるを得ないが、これらの事実だけでは右特段の事情が存するものということはできない。
 3 そうすると、被告が平成七年九月一八日から同年一〇月二〇日までの間原告X2の乗務を拒否し続けたことについて、就業規則九七条を根拠に右の間の賃金債権が不発生であるということはできないから、原告X2は被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。〔中略〕
 1 被告が平成七年二月一九日に、原告X3の乗務が可能であることの診断書が提出されていないことを理由に、乗務をさせなかった措置の適法性について
 (証拠略)及び原告X3本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)によれば、原告X3は、平成七年一月二二日から同年二月一八日まで痔の手術のために休業し、同年二月一九日に出勤したこと、B運行課長が、安全の確認のため、原告X3に対し乗務できることを証する診断書を提出するよう求め、その日は乗務させなかったこと、原告X3は、同月二〇日にも出社したが、その時点では診断書をまだ入手していなかったので、被告は乗務させなかったこと、原告X3は、同日診断書を発行してもらって、同月二一日に被告に提出したこと、以上の事実が認められ、(書証略)の記載及び原告X3本人の供述中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。
 右認定によれば、被告が平成七年二月一九日に原告X3を乗務させなかったことは適法な措置であり、原告X3が被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったということはできない。〔中略〕
 (一) (証拠略)及び原告X3本人尋問の結果によれば、原告X3が平成七年三月一四日にAから内勤の話を持ち掛けられた際、労働条件を明確にしてもらえるなら、内勤でもやむを得ないと考え、Aに対し、労働条件を明確に記載した文書の交付を求めたが、そのような文書をもらえなかったことが認められ、(証拠略)中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。
 (二) しかして、右認定によれば、被告と原告X3との間でタクシー乗務員から内勤に職種を変換する合意が成立したものということはできず、被告が平成七年三月一四日から同年三月二七日まで原告X3の乗務を拒否した措置は適法とはいえない。