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ID番号 07244
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人甲南学園事件
争点
事案概要  大学を批判する文書を学内に掲示し、関係官庁に送付した大学教授に対する理事会決定による懲戒解雇につき、教授会の解任決定が必要かつ有効要件とはいえず、右行為は正当な批判行為からかけ離れたものであり、懲戒権の濫用にも当たらず有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1998年11月26日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 1295 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例757号59頁
審級関係 一審/07109/神戸地/平10. 3.27/平成5年(ワ)373号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 被告が原告を懲戒解雇するに際し、再三にわたって経営学部教授会の意見を徴(ママ)取しようとしており、また、同教授会においても、それに応じるため、原告の懲戒問題について数回にわたり審議しているのであり、それにもかかわらず、最終的に意見を集約できず、同教授会としての意見を表明できなかったものであって、本件解雇に関する手続に問題とすべき点はみられない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 原告は、自らの批判内容について充分な調査を尽くすことなく、しかも右のような不穏当、不適切な表現を用いて、関係者を名指しにした文書を監督官庁である文部省に送付したり、大学の掲示板に掲示したものであり、その行為によって、被告大学及び生協の関係者の名誉を著しく毀損したものと認められる。
 (二) さらに、前記認定のとおり、被告大学当局が、平成二年度の入学試験要綱から、原告によって指摘された問題点を改めた(前記(一三))にもかかわらず、平成二年九月六日に警察庁に、右の生協出資金の徴収方法について告発する文書を送付したり、大蔵省及び会計検査院に対しても同内容の文書を送付しているが(前記(一五)、(一六)。解雇事由〔3〕に該当する行為。)、これらはもはや、大学運営に関する正当な批判行為からかけ離れたものであり、被告大学及び生協関係者の名誉を著しく毀損する悪質な行為であると言わざるを得ない。
 原告は、過去に行われた犯罪事実は後にその状態が改められても消えるものではないから、それを告発しても何ら問題ではないと主張するが、前記のとおり、調査をすることなく生協出資金の徴収方法が詐欺であるとしたこと自体が疑問であり、右の主張を採用することはできない。
 また、原告は、右の批判を行ったのは、被告側から様々な違法・不当な攻撃がかけられたためであると主張するが、仮にそうであるとしても、右のような違法な手段に訴えることが正当化されるものではないから、それが、原告にとって有利な事情となるものではない。
 (三) 以上の点に加えて、原告が前記の文書を掲示板から撤去するよう命じられたにもかかわらずこれに従わなかったこと、被告側からの再三にわたる事情聴取のための面談あるいは出頭要請に応じなかったこと(前記(五)、(七)、(九)ないし(一四)。解雇理由〔2〕に該当する行為。)及び懲戒委員会からの出頭要請にも応じなかったこと(前記(一七)。解雇理由〔4〕に該当する行為。)を総合考慮すれば、原告が本件解雇によって被る損害として、懲戒解雇ということで金融機関から融資を受けることも困難になり、再就職も困難な状況に置かれていること(原告本人)を勘案しても、被告が、原告を学内から排除することなしにはその秩序を維持できないと判断して懲戒解雇にしたことについて、被告にその裁量権の逸脱ないし濫用があったとは認めることはできない。