全 情 報

ID番号 07253
事件名 配転命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 JR東海事件
争点
事案概要  新幹線「のぞみ」減速闘争に対抗して、被告が原告の「のぞみ」乗務の受領を拒否したことに対して、原告が車発機等を持ち帰ったことを理由とする車両技術係への配転命令につき、業務上の必要性が認められないとして無効とされた事例。
 「のぞみ」運転士の右行為を理由とする減給処分が有効とされた事例。
 右運転士に被告が再教育を行ったこと自体は、使用者の権限を逸脱しておらず、運転士の思想、信条の自由を侵害するものではないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 従業員教育の権利
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1998年12月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 572 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例758号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件当時、JR東海労は、本件減速闘争を展開している最中であり、被告に受領拒否という対抗手段を採られることによって、本件減速闘争の争議行為としての効果を大きく減殺されることになるため、その違法、不当を主張し、これに極力抵抗しようとしていたのであって、労使間の対立は厳しいものがあった。
 原告が、受領拒否に伴う点呼に当たって、A助役の指示に従うことなく車発機等を持ち帰った行為を、このような背景事情と切り離し、単なる日常的な業務遂行過程のなかで生じた業務命令違反と同視して、これから原告の運転士としての適性を問題とすることは相当でないというべきである。原告としては、JR東海労の組合員として、組合の方針に従った抗議行動として、A助役の点呼に対し、種々質問を行うなどしたものであり、原告の認識では、作業標準等にない受領拒否に伴う点呼やそれに基づく業務命令は不当と理解していたからこそ、右のような抗議行動の延長において、業務命令に違反してまで車発機等の持ち帰りを行ったものである。
 また、被告が行った再教育についても、その教育内容は従前からの指導教育等として実施してきた就業規則や作業標準等の全般的な復習であり、自習中心のものであって、しかも、当初から、原告が自己の非を認めて反省の態度を示せば打ち切るとの方針で実施されていたというのであるから、原告の業務命令違反の原因が就業規則等の知識不足や認識不足にあるとみて、これを補うという具体的必要から行われたのではなく、結局その目的は、被告側からみた非違行為の反省を迫るものであったというほかない。
 したがって、そのような教育課(ママ)程において、原告が被告と対立する組合員としての立場から、これに反発し、容易に被告の期待するような反省の態度を示さなかったのもやむを得ないところであり、しかも、原告は、少なくとも、最終的には業務命令違反の点は反省すると述べており、当時の労使対立の状況下において、それ以上に、被告の期待する反省を要求することは、変節を強いることにもなりかねないのであって、右のような原告の対応をもって、運転士としての適性の問題とすることもまた、相当とは言い難い。
 むしろ、このような労使間の対立状況を度外視してみたとき、原告にはこれまで運転士業務においても、車掌業務においても、その適性を疑われるような格別の非違行為はなかったのであるから、原告にこのまま運転士を継続させたとしても、原告が業務命令違反や現金管理の厳正に支障をきたすなどの職場秩序違反を再発させると予想することは困難というべきであり、他方、本件配転命令が、原告の資質適性等に照らし配転先がその職場としてより適切であるとの判断からなされているものではないことなどの諸事情に照らせば、配転命令権について使用者に広い裁量が認められることを考慮しても、本件配転命令に業務上の必要性があったとは認め難い。
 したがって、本件配転命令は無効というほかなく、この点についての原告の請求は理由がある。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 労使対立の状況という背景を考慮するとしても、A助役の発した車発機締切り等の業務命令が違法とはいえないこと、その後これが撤回されることはなかったし、原告自身もそのことは熟知していたと認められることは前記説示のとおりであって、原告には、A助役の業務命令に従って東京運転所当直で、車発機の締切りを行い、車発機及び現金を返納する義務があったと認められる。
 しかるに、原告は、自己の勝手な判断で右業務命令に従うことなく、私服で車発機等を持ち帰ったのであり、原告のこの行為は被告が主張する前記社内各規程に違反するものというほかない。
 そして、労使対立という背景や現金持ち帰りに際して原告が細心の注意を払っていたこと、大阪運転初(ママ)所到着後速やかに返納していると認められることなどの原告に有利な事情を考慮しても、量定は相当性を逸脱するものではないというべきであり、本件減給処分を懲戒権の濫用とする事由は認められない。
 よって、本件減給処分が違法無効であるとは認められず、この点の原告の請求は理由がない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-従業員教育の権利〕
 原告には業務命令違反行為が認められ、原告は再教育期間を通じてその正当性を主張し続けていたのであるから、被告としては、処分を行うとしても、それに先立ち、先ず原告にその点の非を認識させ、これについて反省を求めることは必要な措置であるから、被告が原告に再教育を行ったこと自体は使用者としての権限の範囲を逸脱するものとはいえない。
 そして、実施した教育内容は、就業規則の再確認等であり、そのこともまた何ら違法と目すべきものではない。
 また、前記認定のとおり、本件配転命令通知日から発令日までの間においても、原告は乗務を停止され、自習等を強いられているが、この間の教育は、配転後の検修業務に備えたものであった。
 原告は、右教育期間中、B所長らから重ねて心境の変化を問われるなどしているが、これに対しては、原告も相当反抗的な態度で応酬したりしているのであって、B所長らが、原告に反省以上のものを強要し、被告の主張に屈服することまで強いたと認めるに足る証拠はない。
 以上によれば、B所長らの行為が、原告の思想、信条の自由を侵害する不法行為に該当するとは認められないので、これを理由とする損害賠償の請求は理由がない。