全 情 報

ID番号 07261
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 佐世保重工業事件
争点
事案概要  経営体制に異を唱えた管理職九名による架空伝票の作成に関与したうちの六名については、懲戒解雇が有効とされ、退職金請求が棄却され、三名については、首謀者である取締役の指示に従ったもので懲戒解雇は重きにすぎ、社会的相当性を欠くとして無効として、退職金請求が認められた事例。
 懲戒解雇にあたっての事情調査がなかったり、不十分であったことから解雇手続に不備があるとの主張に対し、被告会社の賞罰委員会ならびに表彰・懲罰条件の付議など処理運用要領において、被懲戒者の事情調査や意見陳述は懲戒解雇の要件とはされておらず、手続上の不備はないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 処分の量刑
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1999年1月13日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 1935 
平成6年 (ワ) 765 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例766号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 三 各原告の懲戒解雇の相当性
 前記認定の事実を前提にして、各原告らにつき、それぞれ認められる懲戒事由を総合考慮して本件懲戒解雇の相当性を判断する。
 1 原告X1
 前記認定のとおり、原告X1は、被告会社の関連企業管理室長代理という地位にありながら、これを利用して架空伝票事件に主体的に関与し、少なくとも二〇〇万円の現金を受領しているほか、連判質問状を作成、提出し、発起人として趣意書に署名するなど、被告会社の経営体制に異議を唱え、経営権に不当に介入する行為を繰り返していたものである。
 以上を総合すると、原告X1には被告に対する重大な背信行為があったと認められ、被告がなした懲戒解雇は相当であり、懲戒権の濫用と判断することはできない。(編注・以下、懲戒解雇が相当とされたX2・X4・X6・X7・亡Aについての判断を省略する。)
 3 原告X3
 前記認定のとおり、原告X3は、B(編注・訴外取締役)の指示に従い、ダンセンにおける参加者の呼出し、訴外会社の実印の借り出し及び印鑑証明書の交付申請等を行っているが、原告X3が被告会社から取締役であるBの事務補助、秘書的業務を命ぜられていた立場上、Bの業務上の指示には従う義務があるのであり、ダンセンでの会合の出席者への連絡等を含めて、原告X3はBの指示に反することはできない立場にあったといえるから、これらの行為をもって懲戒解雇事由とすることは相当でない。
 また、趣意書のファックス送信の事実については、原告X3が記載内容を認識して送信していたとしても、右同様Sの指示に従ったことを考慮すれば、右事実のみを理由に懲戒解雇処分として退職金を不支給とすることは重きに過ぎるというべきである。
 以上によると、原告X3に対して被告がなした懲戒解雇は相当ではなく、懲戒権を濫用したものとして無効といわざるを得ない。
 5 原告X5
 前認定のとおり、原告X5は、塗装係長心得の立場において架空伝票の作成に関与し、これに基づく現金三〇万円を受領しており、これらの点においては当然非難に値するのであるが、伝票の作成自体は、本社常務及びC、Bら取締役の指示であると直属の上司であるD塗装課長から説明を受けて、これに従いなされたものであって、右指示は、外形的にみれば被告会社組織の指揮命令系統に則りなされた指示と見ることができるし、受領した金銭も会社経費の補助に使用したと認められるところである。
 そして架空伝票事件においてE(編注・訴外)の指示に従い実働部隊として行動していたFが懲戒解雇処分になっていないと認められること(〈人証略〉)を併せ考慮すると、原告X5の架空伝票事件への関与の程度をもって懲戒解雇とするには、懲戒処分の公平性の観点から均衡を失するものといえる。
 そうすると、これら原告X5の行為をもって、勤続二五年を超える同原告の被告会社に対する功績を失わせる程度の背信行為があったと評価することはできず、同原告に対し懲戒解雇処分として退職金を不支給とすることは重きに過ぎ、社会的相当性を欠くものといわざるを得ない。
 被告は、たとえ捻出した裏金を会社のために使用したとしても、架空伝票操作自体が懲戒解雇の対象になる違法な行為であると主張するが、右事情に鑑みると、これを採用することは相当でない。
 以上によると、原告X5に対し被告がなした懲戒解雇は相当ではなく、懲戒権を濫用したものとして無効といわざるを得ない。
 8 原告X8
 前記認定のとおり、原告X8は、架空伝票事件に関与したが、前記5の原告X5と同様の理由により、同原告に対し退職金を不払いとする懲戒解雇をもって望(ママ)むことは重きに過ぎ、社会的相当性を欠くといえる。
 そうすると、原告X8につき被告がなした懲戒解雇は相当ではなく、懲戒権を濫用したものとして無効といわざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 四 懲戒解雇手続について
 1 証拠(〈証拠・人証略〉)によると、以下の事実が認められる。
 (一) 被告会社は、Bの特別背任事件を端緒に明らかとなった架空伝票事件及び一連の反姫野派の策謀について、原告X1を除く原告らから事情聴取をするなどして調査した結果、原告らに懲戒事由が存するとして、G造船所賞罰委員会を設置した。
 右賞罰委員会においては、数回にわたり原告らの懲戒事由の有無の検討がなされ、原告らの行為が懲戒解雇に該当するとの判断がなされた。
 (二) 被告会社は、右賞罰委員会の答申を受けて原告らを懲戒解雇し、かつ、懲戒解雇者に対しては退職金を支給しない旨を規定する被告会社の退職金支給規定第五条に基づき、原告らに対する退職金を不支給とした。
 なお、被告会社は、原告X2、同X3には解雇予告手当を支給し、その他の原告については佐世保労働基準監督署に解雇予告手当の除外認定を申請して、平成二年三月八日に同認定を得た。
 2 原告らは、本件懲戒解雇をするにあたり、原告らに対する事情聴取がなされなかったり、不十分であったから、解雇手続に不備がある旨主張するが、被告会社では、賞罰委員会の設置ならびに表彰・懲罰案件の付議など処理運用要領において、案件審議上必要な場合は所属長、本人、その他の関係者を委員会に出席させ事情を聴取し又は意見を述べさせることができると規定している(〈証拠略〉)にとどまり、被懲戒者の事情聴取や意見陳述は懲戒解雇の要件とされておらず、被告会社は右処理運用要領に則って処理しているのであるから、本件懲戒解雇に手続上の不備は認められない。
 なお、原告X1らは、連判質問状の提出に関しては既にけん責の懲戒処分を受けている旨主張するが、同原告らが謝罪文を提出していたとしても、これが懲戒処分としてのけん責処分であると認めることはできない。
 3 以上のほか、原告らの退職金を不支給とした本件懲戒解雇につき手続上の不備は見受けられず、右手続を違法とする原告らの主張は理由がない。
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 1 本件懲戒解雇のうち原告X3、同X5及び同X8に対する懲戒解雇は前記のとおり無効なものであるところ、原告X3の退職金額が六二〇万八一九〇円、同X5については八七一万七五七〇円、同X8については三九七万二七七〇円であることについて当事者間に争いがない。