全 情 報

ID番号 07273
事件名 手当請求事件、地位確認等請求事件
いわゆる事件名 池添産業事件
争点
事案概要  賃金規定の改定について、賃金という重要な労働条件に関する変更については、高度の必要性に基づいた合理性が必要であるとして、本件賃金改定は効力を有しないとされた事例。
 大阪営業所を閉鎖し、北九州市への配転を命じたことにつき、訴訟提起をした原告らの排斥を目的としたもので配転命令権の濫用に当たり無効とされた事例。
 右配転命令拒否を理由とする解雇につき、権利濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1999年1月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 5534 
平成9年 (ワ) 8457 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例760号69頁/労経速報1716号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 本件賃金改定は、就業規則に根拠を有すると考えられる乗務員の賃金基準を一律かつ一般的に変更しようとするものであるところ、これによって、原告らの既得の権利が奪われることになったとしても、統一的かつ画一的な運用を建前とする就業規則の集合的な処理の要請からして、その内容が合理的なものである限り、原告らにおいて同意しないことを理由に改定された賃金基準の適用を拒否することは許されないところである。もっとも、右合理性の判断においては、改定の必要性及び内容の両面からみて、原告らが被ることになる不利益の程度を考慮してもなお、変更の必要性を是認できるものであることを要するが、とりわけ、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関する変更の場合には、高度の必要性に基づいた合理的な内容を有するものであることを要すると解すべきである。〔中略〕
 少なくとも本件賃金改定実施前後の労使間交渉における被告の対応は著しく不当というべきであるし、また、改定内容をみても、原告らが被ることになる負担は大きく、これに対して、被告には、単なる一般的な窮状という以上に、本件賃金改定を是認するに足る具体的な必要性や妥当性が存したことが必ずしも明らかであるとはいえず、結局、本件賃金改定には高度の必要性に基づく合理性があると認めることはできない。
 よって、本件賃金改定は違法であり、無効というほかない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 大阪営業所の自車輸送業務閉鎖の理由として、被告らの主張するところはいずれも採用できないものばかりであり、閉鎖、したがってまた本件配転命令の真の理由は他に存すると考えるほかない。
 ところで、前記認定のとおり、A分会結成の直後には、B労組が結成されているが、その発案者は社長Cと認められ、その役員選任にも社長Cが関与したり、分会員でない神戸営業所配属のDらを出張と称して本社に呼び、B労組結成大会への参加を働きかけたりしているところからすると、B労組は、社長Bらが首謀者となって、A分会に対向(ママ)する目的で従業員らを組織しようとして結成されたものと推認される。
 これに加えて、その後、平成七年五月頃、EやFが原告らに対する脱退勧誘に当たったりしたことも、Eらの独自の判断でしたものとは考えられず、社長Cらの指示によるものと推認できるし、その頃の賃金改定に関してA分会と全く没交渉であったこと、大阪営業所の自車輸送業務閉鎖が、原告らが本件イ事件を提訴した直後に、それまでの事業縮小の方針を急遽翻して決定されていること、説明会においても、被告は転勤か退職かを迫る態度で臨んでいること等を総合考慮すると、大阪営業所自車輸送業務閉鎖と本件配転は、全港湾労組及びA分会を敵視し、憎悪した被告が、本件イ事件を提訴した原告らに対する報復と被告からの排斥を真の目的としてなされたものと推認するのが相当というべきである。被告は、原告らが採用以来関西地区を生活の拠点としてきており、加えて、震災後間もなくの混乱時にあること等を奇貨とし、原告らが配転命令に応じ得る余地は少ないことから、原告らの排斥を目論み、困難な配転命令を敢えて発した上、原告らがこれを不当として不当労働行為救済命令の申立を行うや、配転拒否を理由に予定どおりに解雇したものというべきである。
 したがって、本件配転命令及び本件解雇には、到底正当な理由は認められず、配転命令権及び解雇権の濫用というほかなく、これらはいずれも無効である。