全 情 報

ID番号 07301
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 朝鮮日報日本支社事件
争点
事案概要  会社の運転手であった原告が解雇され、その効力を争っているときに会社が解散したが、その会社と人的・物的に全く同一の会社に対してした地位確認及び賃金の支払請求につき、本件においては合意解約は成立しておらず、解雇であり、解雇を相当とする勤務態度であったとは言えないが、会社は解散しており、右両社の法人格を同一視することはできないとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
商法94条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / その他
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
退職 / 合意解約
裁判年月日 1999年3月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 23290 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1710号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 一 合意退職か解雇か
 1 本件雇用契約の合意解約の有無について(争点1(一)-地位確認請求に対する抗弁)
 (一) (証拠略)並びに原告本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
 (1) 平成八年五月九日、Aは、原告に対し、性格が合わないこと等を理由に、「今日限り辞めてくれ」等と申し渡したが、原告はこれに納得できなかった。
 (2) 同年五月一七日、B株式会社代理人山本潔弁護士(以下「山本弁護士」という)は、原告に対し、同年五月一八日到達の内容証明郵便(書証略)で、「貴殿退職に際してのB株式会社支払金に関し次の通りご通知致します」として、同年四月二六日から同年五月九日までの日割計算による未払給料一七万五八九一円及び解雇予告手当四五万六五〇〇円、以上合計金六三万二三九一円を支給すること、原告がB株式会社に健康保険被保険者証、こくみん共済加入証書等を返却し、特別退職金共済制度脱退者通知書兼年金一時金請求書、雇用保険被保険者離職証明書及び雇用保険被保険者資格喪失届に捺印後返却した後、B株式会社が前記未払給料及び解雇予告手当を原告指定の口座に振り込んで支払うほか、東京商工会議所から退職積立金五五万一一九一円が振り込まれること、以上のとおり通知した。
 (3) 同年五月二四日ころ、山本弁護士は、原告に対し、山本弁護士の事務所まで、未払給料及び原告の私物を受け取りに来て、退職を確認する合意書を取り交わすよう連絡した。原告は、B株式会社に対し、健康保険被保険者証以外の署名捺印した書類に送付書(書証略)を付して送り返した。原告は、既に同年五月一六日にB株式会社のC部長に健康保険被保険者証を手渡しして返却していた。原告は、B株式会社に対し、右のとおり書類に署名捺印して送り返した際、勤務中の立替金その他の金員の支払を請求する請求書(書証略)も送付した。原告は、山本弁護士の求めた合意書の作成に応じず、B株式会社に対して退職届、合意書その他の退職を確認する書面を提出しなかった。
 (4) 同年五月二九日、B株式会社は、D信用金庫狛江支店の原告名義の普通預金口座に前記未払給料一七万五八九一円及び解雇予告手当四五万六五〇〇円を振り込んだ(書証略)。
 (5) 同年五月三一日、原告は、府中公共職業安定所に求職の申込みをした(書証略、雇用保険法一五条二項)。原告は、その後、雇用保険法所定の手続により、失業の認定を受けて、同年六月七日から平成九年四月二日までの間、求職者給付としての基本手当の支給を受けた(書証略)。
 (6) 平成八年六月一四日、東京商工会議所は、原告の前記口座に退職金積立金五五万一一九〇円を振り込んだ(書証略)。
 (7) 原告は、B株式会社のC部長及び山本弁護士に対し、解雇理由を明らかにするよう再三にわたって求め、Aに対し、同年七月二九日到達の内容証明郵便で、時間外労働手当から心付けとしてもらった金員を控除されたとして、これに関する記録を送付するよう求めたほか、解雇理由を明らかにすることを求めた。
 (8) 同年八月二七日、原告は、東京地方裁判所に対し、解雇無効を理由とする地位保全の仮処分命令を申し立て、B株式会社の解散、清算決了登記を受けて同年一一月五日に右申立てを取り下げ、同年一一月二七日、本件訴訟を提起した。
 (二) 右の事実によれば、原告は、平成八年五月九日にAから「今日限り辞めてくれ」等と申し渡された後、同年五月二四日ころ、B株式会社に対し、健康保険被保険者証、こくみん共済加入証書等を返却し、特別退職金共済制度脱退者通知書兼年金一時金請求書、雇用保険被保険者離職証明書及び雇用保険被保険者資格喪失届に捺印して送付し、B株式会社から未払給料及び解雇予告手当並びに退職金積立金の振込みを受け、雇用保険法に基づく失業保険金の給付を受けたが、他方、B株式会社は原告に解雇予告手当を支払っているし、原告は、B株式会社に対して退職届、合意書その他の退職を確認する書面を提出せず、解雇理由を明らかにすることを求め、同年八月二七日には解雇無効を理由とする地位保全の仮処分命令を申し立て、その後本件訴訟を提起したものであるから、これらの事実に照らして考えると、前記の未払給料及び退職金積立金等の受領並びに雇用保険法に基づく失業保険金の受給の事実を根拠に本件雇用契約の合意解約の事実を推認することは難しく、(証拠略)中本件雇用契約の合意解約の事実に沿う部分は、右各事実に照らしてたやすく採用することができず、他に本件雇用契約の合意解約の事実を認めるに足りる証拠はない。
 2 解雇の成否(争点1(二)-賃金支払請求の請求原因事実)
 1(一)の各事実によれば、Aは、平成八年五月九日、原告を解雇したものと認めることができる。
 二 就業規則所定の解雇事由の存否
 (証拠略)に弁論の全趣旨を併せて考えれば、抗弁2(一)のような事実が一部存したことが認められるが、原告の態度が顕著に悪かったとまで認めることはできず、これらの事実だけをもって直ちに就業規則一〇条一項二号又は七号に該当するものと認めることは困難である。
〔労働契約-労働契約の承継-その他〕
〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 B株式会社と被告とは、事務所所在地を共通にし、役員構成が同一であり、B株式会社の従業員は、原告雇用後は専ら被告の業務を遂行していたのであり、事務所内の備品、電話加入権及び営業用自動車についても両者が供用していたものであるから、B株式会社と被告とが密接な関係にあったことは否定することができないが、他方、B株式会社と被告とは経理処理及び銀行取引を明確に区別して処理しており、被告とB株式会社の財務関係は混同していなかったものであって、業務等の右に述べた各点も、B株式会社が被告の業務委託を受けて業務を遂行していたためであると認められるから、B株式会社と被告とが法律上同一の会社であるとして両者の法人格を同一視することはできない。
 もっとも、B株式会社の貿易売上高、手数料収入、仕入高の推移は前記のとおりであり、事務委託に基づく収入に比べれば金額は少なかったし、平成六年度には一〇八九万八一八四円の当期損失を生じたとはいえ、毎年損失を生じていたわけではなかったから、B株式会社は、被告からの事務委託を継続していれば、事務委託に基づく収入と貿易による収入とで会社として存続することは可能であったのではないかとの疑いを払拭することはできず、なぜ平成八年七月三一日をもってB株式会社を解散しなければならなかったのか、その理由も十分に証明されているとは言い難い。しかしながら、営業の自由は、事業の廃止の自由をも含み、事業の廃止の時期をも含めて経営者の合理的な判断にゆだねられており、その裁量の幅は広く、原則として権利の濫用の問題を来さないというべきであるから、B株式会社が解散されたことが法人格の濫用であるということも困難であるといわなければならない。