全 情 報

ID番号 07308
事件名 休業補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 コトブキ・立川労働基準監督署長事件
争点
事案概要  自動車部品の塗装業務に従事していた原告の腰椎椎間板ヘルニア及び左中指バネ指の罹患について、業務外と決定した労基署長の決定が維持された事例。
参照法条 労働基準法75条2項
労働基準法施行規則35条別表第1の2第1~8号
労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1999年3月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ウ) 148 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例766号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 1 労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)一二条の八第二項は、労基法七五条から七七条まで、七九条及び八〇条に規定する災害補償の事由が生じた場合に業務災害に関する保険給付を支給する旨規定しており、労基法七五条は、災害補償事由の一つとして「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合」を規定し、労災保険法一条は「業務上の事由により」と規定している。右のとおり、業務災害に関する保険給付が認められるためには、業務起因性がなければならないところ、疾病に業務起因性があるというためには、業務と疾病との間に相当因果関係のあることが必要である。相当因果関係を肯定するには、前提として条件関係、すなわち事実的な因果関係があることを要し、医学的見地から当該業務がその疾病発症の原因となった可能性を認めることができる場合にこれを肯定すべきであり、医学的見地から当該業務がその疾病発症の原因にはなり得ないのであれば条件関係の存在を否定すべきである。条件関係があることを前提として、当該疾病が業務に内在し又は通常随伴する危険の現実化したものと認められる場合に当該疾病と業務との間に相当因果関係が認められるものと解するのが相当である。
 したがって、本件においては、原告の従事していた業務が医学的見地から本件疾病発症の原因となった可能性を肯定でき、かつ、右業務が本件疾病を招来させる危険性を内在又は随伴しているものであることが必要である。〔中略〕
 原告が従事していた業務が腰部に過度の負担のかかる業務に当たるということはできず、他に原告が従事していた業務が腰部に過度の負担のかかるものであったことを認めるに足りる証拠もない。
 (五) A医師は、前記一2のとおり、腰椎椎間板ヘルニアの発症を「業務上のものと考えたい」との意見を書面(〈証拠略〉)で述べているが、同意見は、エックス線写真の所見に言及しておらず、膝蓋腱反射の両側での亢進、座骨神経伸展テストでの両側のしびれの増強、腰痛の治療に反応していることのほか、原告のした作業内容等の説明に基づくものにすぎず(原告本人)、むしろA医師に診療を受ける前の平成二年八月六日にB病院で撮影された原告の腰部エックス線写真によれば、第五腰椎に加齢現象と見られる骨棘形成が認められ、それは変形性脊椎症と呼ばれ、腰痛の原因になりうること(前記一1、3)、C医師も原告の症状について書面で加齢現象による旨の意見を述べていること(前記一2)などからすれば、原告の腰椎椎間板ヘルニアの原因としては加齢現象が強く疑われるのであり、A医師の前記意見をもって、医学的見地から原告の業務が腰椎椎間板ヘルニア発症の原因となった可能性を直ちに認めることはできない。
 (六) 右のとおり、原告の腰椎椎間板ヘルニアは、医学的見地から原告の業務がその発症の原因となった可能性が肯定されたものと認めるには必ずしも十分とはいえず、業務以外の原因によって発症した可能性が高く、原告の従事していた業務が腰部に過度の負担をかけるものであったということもできないことからすると、原告の腰椎椎間板ヘルニアと原告の従事していた業務との間に相当因果関係を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もないので、業務起因性はないものと言わざるをえない。〔中略〕
 そもそもバネ指は四〇歳代から五〇歳代の女性に多く、更年期に伴って発症することも多いものであるが、その原因は判然としておらず、退行変性も原因と考えられている(前記一4)ところ、左中指バネ指と診断された平成三年当時、昭和一二年生まれの原告は五〇歳代で、平成元年九月ころ診察を受けたD病院において「更年期障害」と診断されている(前記一1)など、原告は、バネ指の好発年齢に該当していた。また、C医師は原告の左中指バネ指についても加齢現象に基づく可能性が強いとの意見を書面で述べている(前記一2)。さらに、原告と同様の作業に従事していた者で、バネ指を発症した例は報告されておらず、E医師も「内因性のものが考えられやすい」としている(前記一2)。さらに、原告は、日付印を押す作業、スライドレールをハンガーに掛ける作業のいずれも左手の親指と中指で部品を支えた結果左中指バネ指が発症した旨主張するが、もしそのとおりであったとすれば、少なくとも親指と中指の両方に過度の負担がかかり、両方の指にバネ指が発症する可能性が考えられるが、実際にバネ指が発症したのは中指だけである。
 こうしたことからすると、原告の左中指バネ指については、そもそもその原因が判然とせず、加齢現象に基づくものである可能性も否定できないところである。
 (三) 右のとおり、原告の左中指バネ指は、結局その原因が判然とせず、加齢現象、内因性のものであることも考えられるから、医学的見地から原告の業務がその発症の原因となった可能性が肯定されたものと認めるには必ずしも十分とはいえず、また、原告の従事していた業務が手指を過度に使用するものとはいえないことからすると、原告の左中指バネ指についても原告の従事していた業務との間に相当因果関係を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、業務起因性を認めることはできない。