全 情 報

ID番号 07312
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 禁野産業事件
争点
事案概要  貸しビル業を営む会社と準委任契約書を作成してビル管理業務契約を締結し、ビル管理業務に従事していた者が、消防署による火災報知機の点検の際に、入居者の了解を得ずに勝手にその部屋に入ったり、防火責任者の選出のための資料に入居者の中のXの家庭を母子家庭と記載し、他の入居者の家庭につき「昼間夫婦不在」「夜遅く帰宅」と書くなど、入居者のプライバシーに対する配慮を欠き、ビル管理人として不適切であるとして、契約を解除されたことにつき、当該解除は解雇であり、解雇権の濫用に当たるとして争ったケースで、入居者のプライバシーに対する配慮を欠き、ビル管理人として不適切であり解雇は有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
労働契約(民事) / 成立
裁判年月日 1999年3月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 4318 
裁判結果 請求棄却
出典 労経速報1708号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 ある契約関係が労働契約であるか否かは、当該契約の形式のみによって決するのではなく、使用従属関係のもとで労務を提供し、その対価として賃金を受ける関係にあるか否かという実質によって判断すべきである。
 この観点から本件を見ると、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告によって出勤時間と退勤時間を定められ、出勤簿によって出退勤の管理を受けていたこと、被告から給与の支給を受け、給与所得の源泉徴収もされていたこと、原告は、業務日誌の作成を義務づけられ、毎日業務内容を被告に報告していたこと、Aは、原告に対し、管理業務に関し頻繁に指示、指導又は注意を与えていたことが認められるのであって、かかる事実関係の下では、原告は、被告との使用従属関係のもとで労務を提供し、その対価として賃金の支払を受けていたというべきである。確かに、原告は、被告の取締役に就任しており、証拠(略)によれば、原告が被告の取締役となったのは、原告が被告とBの間の紛争に関し、実質的に法律顧問として活動することができるようにするためであったこと、実際にも、原告は、被告において法律的な指導、助言の役割を担っていたことが認められるのであり、原告は、被告の取締役としてその経営にかかわる事項にも一定の関与をしていたというべきであるが、少なくとも管理業務に関する限りは、前記のとおり使用従属関係のもとで労務を提供していたといわざるを得ない。したがって、原告が、本件ビルの管理業務を開始する際に、平山弁護士及び得本弁護士との間で準委任契約書を作成していたとしても、本件契約の性質は労働契約であって、右契約関係を終了させる意思表示は解雇の意思表示であり、そこには解雇権濫用法理の適用があるというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 原告は、管理業務を遂行する過程において、入居者であるC及びDから再三苦情を申し立てられていることが認められる。そして、前記認定にかかる原告の行為のうち、特に、CやDの居宅に無断で入室し、D宅で入居者の私物を勝手に使用するなどした行為は、管理人としての権限を明らかに逸脱し、入居者のプライバシーに対する配慮を欠く不適切な行為であるというほかはないし、また、防火責任者選出の参考資料の記載は、本来入居者のプライバシーを守るべき立場にある管理人が、軽率にも入居者のプライバシーを公表するような記載をしただけでなく、母子家庭との用語を用いることによってCの心情を傷つけたもので、管理人としては著しく適切さを欠く行為であったといわざるを得ない。
 また、本件解雇の直接の契機となった水漏れ事故に関しては、水漏れの原因がどこにあるにせよ(本件の証拠による限り、原告の湯沸器取付作業が原因であると考えるのが自然であるが、その点は措くこととする)、管理人としては、階下のテナントに損害が生じてないかどうかまず確認し、謝罪すべきであるのに、これをせず、ただ水漏れの責任から逃れることだけに執着し、Eら他の被告の従業員とも衝突を引き起こしているのであり、右のような原告の一連の行動は、管理人としての責任感の欠如を示すものといわざるを得ないほか、他の従業員との協調を乱すものである。
 (二) 管理人には、管理業務を遂行する過程において入居者との間でトラブルを引き起こさないように務める義務があることはいうまでもなく、特に入居者のプライバシーに対する配慮が強く求められるというべきである。したがって、前記のように、入居者のプライバシーをないがしろにする行為を行い、これによって入居者から強く非難されたにもかかわらず、謝罪することもなく、かえって自己弁護に努めるが如き態度に出ている原告は、管理人としての適格性を欠くと評価されてもやむを得ないというべきである。